バンコク火災で30人が命を落とした夜、逃げ場はなかった。エアコンの短絡が引き金となった炎は瞬時に店内の電源を落とし、客たちは暗闇の中をトイレへと走った——しかしその扉は施錠されていたらしい。Rong Beer Na Lat Phraoで起きたこの惨事、調べれば調べるほど「なぜ防げなかったのか」という疑問が積み上がってくる。
施錠された扉、家具で塞がれた出口——30人が逃げられなかった理由
タイ工学協会の火災安全専門家ブサコーン・センスクが現場を調査した結果、こんな状況が明らかになった。
「トイレ付近の扉が施錠されており、入口の2つの扉は家具や物品で部分的にふさがれていた」
火が出たのはステージ付近。客たちは本能的に炎から遠ざかる方向、つまりトイレのある店の奥へと逃げた。ところがそこに逃げ道はなく、多くの犠牲者がトイレ内で発見されたという。「非常口の誘導灯が点いていれば、扉の施錠に気づいて解錠できたかもしれない」とブサコーン氏は語っている。
さらにステージの装飾に使われたプラスチック製の造花など、可燃性の素材が延焼を一気に加速させたとみられる。5月に店を訪れた客はBBC Thaiに「もともと薄暗い店で、トイレへの道は入り組んでいた」と証言しており、停電前から視界が確保されにくい環境だったことがわかる。
Rong Beer火災の過失捜査——タイ火災安全規制が問われる
タイ警察トップのキッティラット・パンペット警察大将は「安全配慮の欠如であり、客への安全への無関心を示すもの」と断言した。現在、過失致死の疑いで捜査が進んでいる。焦点は店側の責任だけではない。タイ火災安全規制が実際に機能していたかどうか、検査体制そのものにも疑いの目が向いている。
負傷者は70人超、うち24人が重傷。27人の身元が確認済みで、残る3人の特定が続いている。バンコクには観光客も多く訪れる繁華街の飲食店で、これほどの安全管理の不備があったとすれば、同様のリスクを抱える店舗が他にもあるんじゃないか——そう考えるのは自然な流れだろう。
この先どうなる
タイ当局は過失捜査を本格化させており、店のオーナーや管理責任者への聴取が続く見通し。並行して政府がバンコク市内の飲食店・娯楽施設に対する抜き打ち検査に乗り出す可能性も報じられている。タイ火災安全規制の見直し議論が国会レベルに上がるかどうかが、今後の注目点になりそうだ。観光業への影響も無視できず、外国人旅行者の間でバンコクの夜の安全性への不信感が広がれば、政府への圧力はさらに高まる。「非常口の確認」という個人の習慣が、結局は最後の砦になるという現実を、この火災は改めて突きつけた。