ヤジディ教徒ジェノサイドの被害者は、最初に「競り」にかけられた。2015年秋、モスールのバザーで5歳の少女が売買された。買い手はドイツ在住の元難民、トワナ・H・S。妻に頼まれて、という理由だった。
5歳と12歳、二人の少女に何が起きたか
ミュンヘン高等裁判所が2026年7月13日に示した認定事実は重い。トワナは2015年秋に5歳の少女を購入し、2017年10月にはさらに12歳の少女を「入手」した。検察が法廷で述べた内容はこうだ。
「トワナ・H・Sは両児童を繰り返しレイプした。妻は少女の一人に化粧を施し、部屋を準備していた」
妻のアシア・R・Aは犯行当時21歳未満だったため、少年法が適用されて9年半の刑。一方、トワナには集団虐殺・戦争犯罪・人道に対する罪・児童への重大な性的虐待を理由に終身刑が確定した。夫婦は2024年にバイエルン州で逮捕されていた。
少女たちは家事や育児を強制され、自分たちの宗教の実践も禁じられた。殴られることもあった、と記録には残っている。
なぜドイツで裁かれたか――「普遍的管轄権」の使い方
ここで引っかかるのが、なぜドイツの法廷が機能したかという点だ。トワナは2000年代初頭に難民申請者としてドイツに渡り、ミュンヘンで理髪師として働いていた。亡命申請は却下されたが、ドイツ国籍の子どもを持つ親として在留を認められていたらしい。その後、ミュンヘンのモスクで過激化し、2015年にイラクへ戻ってISに合流した。
ドイツは「普遍的管轄権」の原則を積極的に使う国として知られている。自国との関係が薄くても、ジェノサイドや人道に対する罪については国内で訴追できるという考え方で、イスラム国 奴隷制 裁判ではこの枠組みが繰り返し使われてきた。ドイツ連邦検察庁はIS犯罪について100件以上の捜査を抱えているとされ、今回はその中でも被害の悪質性が際立つケースだった。
ヤジディ教徒は北イラクを故地とするクルド系少数民族で、ISによって2014年以降、組織的な殺戮と性奴隷化の標的にされた。男性は大量虐殺され、女性や子どもは売買された。ドイツはこれをジェノサイドと公式に認定している数少ない国の一つだ。
この先どうなる
今回の判決はミュンヘン高裁による確定だが、ISに関わった人物の訴追は欧州全体でまだ続いている。被害を受けたヤジディ教徒の女性たちの多くは今もイラクやシリアの難民キャンプにいて、帰還の見通しは立っていない。国際刑事裁判所(ICC)はISによるヤジディ虐殺の調査を続けており、個人訴追への発展を求める声も根強い。ドイツが今回示したのは「加害者が自国内にいれば裁ける」という実績だが、イラクやシリアに潜伏する元戦闘員については手が届かないままというのが現実でもある。ミュンヘン高裁 戦争犯罪の判決が積み重なるたびに問われるのは、法廷の外で何が変わるか、という問いだろう。