出生地主義廃止が、米中の指導者の間で「共通の勝利」として語られる時代が来るとは、さすがに予測していなかった。トランプ大統領は2025年5月、自身のSNS「Truth Social」に投稿し、習近平国家主席と中国を出生地主義をめぐる歴史的な動きで称賛した。
「習近平主席と中国という偉大な国家が、出生地主義における歴史的な勝利を収めたことを祝福したい。」— Donald J. Trump(Truth Social)
この投稿が指しているのは、中国が自国民による海外での「遠征出産」を通じた他国籍取得を制限する政策を強化したこととみられる。中国政府は従来から、富裕層が米国やカナダで子どもを産み、子に外国籍を取得させる慣行を快く思っていなかった。その流れを、トランプが「正しい方向」と評した格好だ。
憲法修正第14条を攻める、トランプ政権の1年目
一方で米国側の動きも見逃せない。トランプ政権は2025年1月の就任直後から、憲法修正第14条に基づく出生地主義の廃止を大統領令で推進しようとした。この条項は南北戦争後の1868年に制定され、「米国内で生まれた者は米国市民である」と定めるもの。連邦裁判所はいまのところ差し止めを命じているが、政権側は上訴を続けており、最終的に最高裁に持ち込む構えを崩していない。
トランプ・習近平という通常ならば対立軸にある二人が、国籍制度の引き締めという点で「同志」扱いされるのは、なんとも奇妙な絵だと感じた。人権団体はこの動きを「国籍という盾の解体」と強く批判している。不法移民の子どもだけでなく、合法的な在留資格を持つ親から生まれた子どもまで影響を受け得るためで、Birthright Citizenship US Chinaをめぐる議論は法廷と国際世論の両方で続いている。
日本はどこに立つのか——出生地主義の廃止が波及する先
日本はもともと血統主義を採用しており、出生地主義は取っていない。ただ「無国籍」問題への影響は別の話だ。米国で出生地主義が廃止されれば、日本人の親を持たずに米国で生まれた子どもが無国籍になるケースが増えるリスクがある。また、トランプ・習近平がそろって国籍制限を「勝利」と呼ぶ国際的雰囲気は、日本の国籍法改正議論にも間接的に圧力をかける可能性がある。外国籍の親から日本で生まれた子への対応など、これまで先送りされてきた論点が改めて問われることになりそうだ。
この先どうなる
米国の出生地主義廃止をめぐる訴訟は、最終的に連邦最高裁で決着する見込みだ。保守派多数の現在の構成を考えると、政権に有利な判断が出る可能性も否定できない。中国側の動向については、海外出産制限の実効性がどこまで担保されるか不透明な部分が残る。ただ、米中という全く異なる政治体制の国が、「生まれた場所で国籍を与えない」方向に向かって足並みを揃えつつあるとしたら——それは国際的な国籍制度の地殻変動の始まりかもしれない。トランプの祝電一本が、その象徴になった。