ブレント原油とホルムズ海峡、この二つが4ヶ月ぶりに「戦争前」という同じ座標を指した。6月25日、ブレント原油は一時1バレル72.48ドルを下回った。この数字、じつは米・イスラエルがイランへの攻撃を開始した2026年2月28日の前日終値にぴったり重なる。その後73.23ドルへ小幅反発したが、市場が刻んだメッセージはかなり明確だった。

MOU署名から8日間で284隻、ホルムズ海峡に何が起きたか

海事情報会社ケプラーのデータを見ると、6月17日のMOU署名翌日から18日時点で284隻がホルムズ海峡を通過している。ただ、戦前の平均は1日あたり約138隻だったというから、284隻という数字は累計であってまだ回復途上という読み方が正確らしい。通過船舶の内訳は原油タンカー、LNG船、肥料輸送船など幅広く、供給サイドの多層的な回復を示している。

さらに米・イランは「商業船舶の安全な航行」を目的とした直通の通信ラインを開設。仲介役のカタールとパキスタンが共同声明でこれを確認した。スイスでの直接協議を経て、米国がイラン産原油への制裁を部分的に解除したことも重なり、供給期待が一気に織り込まれた格好だ。

「市場は依然として中東地域を注視しており、緊張が再燃すれば原油価格は素早く上昇する可能性がある」──エコノミスト・インテリジェンス・ユニット 中東・アフリカ地域ディレクター プラティバ・タカー氏(BBC Newsより)

海事リスク会社マリスクスのCEO、ディミトリス・マニアティス氏は「ここ数日で海峡を利用する船舶が劇的に増えた」と話す。それだけ封鎖中に溜まっていた需要が一気に動き出したということでもある。

「60日間の猶予」が価格の天井を決める

MOU署名が定めた核交渉の期限は60日。つまり8月中旬まで交渉が続く計算になる。この60日間、合意が維持されれば供給圧力は続き、原油価格はじわり下押しされやすい。一方で交渉が決裂した瞬間、イランが再び海峡を閉鎖するシナリオへの警戒は消えていない。米イラン核交渉と通過船舶数、この二つの指標を同時に追うのが当面のルーティンになりそうだ。

ケプラーのデータは通過船舶数をほぼリアルタイムで示しており、284隻という数字が1日あたりの平均138隻水準に戻るまであと何日かかるかが、市場のセンチメントを測るバロメーターになっている。

この先どうなる

原油価格が再び上昇に転じるとすれば、想定されるトリガーはいくつかある。核交渉の決裂、イランによる海峡通行の再規制、あるいはMOU期限延長が失敗した場合の制裁再発動あたりが筆頭候補だろう。逆に交渉が順調に進み、60日後に正式合意まで至れば、イラン産原油の本格輸出再開で価格はさらに下押しされる展開もあり得る。市場は「戦前水準まで戻した」という事実に安堵しながらも、8月のカレンダーをかなり意識した動きが続くとみていい。60日の砂時計、どちらに傾くか。