ホルムズ海峡のタンカー通過が再開した直後、WTI原油先物は戦時高値から数日で急落し、イラン攻撃後についた上昇分をほぼ吹き飛ばした。Bloomberg が伝えたこのニュース、数字だけ見ると「あっさり終わった」印象だが、その裏側を追うとかなり複雑な話になってくる。

タンカーが動いた――20%の咽喉部で何が起きたか

ホルムズ海峡は世界の原油輸送の約20%が通過する文字通りの咽喉部。封鎖期間中、この水域で足止めされていたタンカーが相次いで通過を再開したことで、市場が値段に織り込んでいた「供給が止まるかもしれない」というリスクプレミアムが一気に縮んだ。

WTI原油価格の推移を振り返ると、イラン攻撃の報が出た直後は急騰。だが米イラン和平交渉が進展するにつれ、投機筋のロングポジションが手仕舞われ、価格は坂を転がるように下落した。「戦争になる」という前提で積み上げられたポジションが、外交交渉ひとつで崩れるのだから、原油市場のボラティリティがいかに地政学に連動しているかよくわかる。

「米イラン和平交渉が進展するなか、ホルムズ海峡をより多くのタンカーが公然と通過し、供給逼迫への懸念が和らぐ中で、原油の戦時上昇分はほぼ消え去った。」(Bloomberg)

「公然と通過」という表現が引っかかった。封鎖中はAIS(船舶自動識別装置)の信号を切って航行するタンカーも出ていたといわれており、今回それを「堂々と」やれるようになったのは、交渉が一定の段階まで進んだサインとも読める。

ガソリン代・輸送コストへの波及――恩恵は本当に届くのか

WTI原油価格の下落は、時間差でガソリン価格や輸送コストに反映される。特に航空燃料と船舶用重油は原油との連動性が高く、国際線の運賃や海上輸送の運賃指数にも下押し圧力がかかりやすい。日本のような原油輸入依存国にとっては、円建てコストの軽減につながる可能性がある。

ただし、ここで楽観しすぎると痛い目を見るかもしれない。米イラン間の合意について、法的拘束力や監視体制が依然として不透明だとBloombergは指摘している。つまり今の原油安は「交渉が続いている間は大丈夫」という条件付きの平和であって、何かのきっかけで再びホルムズ海峡の緊張が高まれば、価格は瞬時に跳ね上がる構造が残ったままだ。リスクプレミアムが「消えた」のではなく、「眠っている」に近い状態といえる。

この先どうなる

米イラン和平交渉の行方が最大の分岐点。合意が法的に固まり、国際的な監視体制が整えば、ホルムズ海峡の安定は長期化し、WTI原油価格の推移も落ち着いたレンジに収まっていく可能性がある。一方で交渉が暗礁に乗り上げれば、タンカーは再び針路を変え、原油市場は一夜にして逆回転する。今のところ市場は「交渉妥結」シナリオに大きく賭けているが、その賭けが正しかったかどうかは、合意文書の中身が公開されるまでわからない。ガソリン価格の恩恵を享受できるかどうかも、外交のテーブルにかかっている。