ホルムズ海峡 通行料——この4文字の組み合わせが、静かに原油市場を揺らし始めている。封鎖でもなく、砲撃でもなく、「料金所」を設けるという発想でイランが世界の原油動脈に値札をぶら下げようとしていると、ニューヨーク・タイムズが報じた。世界の原油輸送量のおよそ20%が通過するこの海峡で、これまでとはまったく異なる戦略が動き出しつつある。
イランが選んだのは「砲」じゃなく「算盤」だった
イランはこれまで、ホルムズ海峡を「危険地帯化」することで市場を揺さぶってきた。タンカーへの嫌がらせ、機雷の脅し、そして封鎖の示唆。いわば恐怖で値を吊り上げる手法だったわけだ。
ところが今回は違う。専門家が指摘するのは、通行料という「平時の権利主張」という形。封鎖すれば国際社会から即座に軍事的圧力を受けるリスクがある。しかし料金所なら、既成事実を積み重ねながら時間を稼げる。この発想の転換、なかなか手が込んでいる。
「イランはホルムズ海峡を危険な水域に変えることで事実上の武器として利用してきたが、専門家によれば同国は今後、この要衝を通過しようとする船舶から通行料を徴収することを検討していると報じられた」(ニューヨーク・タイムズ)
タイミングも絶妙といえばそうで、米イラン間で核交渉が続いているなか、イランは交渉カードを一枚増やした格好だ。「話し合いをしながら、海峡の支配権は着々と形にしていく」という二正面作戦に見える。
日本の原油調達コスト、数字で考えると見えてくる現実
日本にとってホルムズ海峡は切っても切れない存在だ。中東産原油への依存度は輸入全体の9割前後で推移しており、事実上すべての原油がこの海峡を通ってくると言っていい。
通行料の額がどの水準に設定されるかはまだ不明だが、仮に大型タンカー1隻あたり数十万ドルの料金が課されたとすれば、それはそのまま調達コストに上乗せされる。1隻あたりの積載量を換算すれば、バレルあたり数十セントから数ドル規模の押し上げ要因になりえる計算だ。単発なら誤差の範囲でも、これが「恒常的なコスト」として定着すれば話が変わってくる。
韓国、インド、中国——中東産原油に依存するアジア各国も同じ構図に直面する。イランとしては、アジア側の「払わざるを得ない」という構造を読んでいる可能性が高い。
この先どうなる
米イラン核交渉の行方がまず最大の変数だろう。交渉が妥結に向かえば、通行料構想は棚上げになるシナリオもある。逆に交渉が暗礁に乗り上げれば、イランは「料金所」をより本格的に押し進める根拠を得る。
国際海洋法の観点では、公海上の通行を一方的に有料化する権利はイランにはないとされている。ただし「法的に無効」と言ったところで、現場の船舶が拿捕リスクを恐れて払ってしまえば既成事実は積み上がっていく——そこが厄介なところだ。
日本政府がこの動きをどう織り込み、備蓄や調達先の多角化をどう加速させるか。静かに、しかし確実に問われ始めている局面に来たらしい。