米イラン暫定合意が成立してから数日、ホルムズ海峡の通航再開への期待で原油市場が一息ついた——はずだった。ところが世界の首脳たちの表情は晴れないまま。調べてみると、合意文書の中に肝心なことがほとんど書かれていないとわかった。
合意文書に「核」の文字が何回出てくるか
核開発の制限幅、IAEAによる査察の頻度と権限、制裁解除のタイムライン——これらはすべて「今後の交渉で決める」という扱いになっている。枠組みだけが存在し、数字がどこにもない。
これはJCPOA崩壊のときとよく似た構図だと感じた。2018年にトランプ政権がJCPOAから離脱した際、多国間で積み上げた検証体制が一夜にして無効化された。あの経験を身をもって知る欧州の外交官たちが、今回も額面通りに受け取らない理由はそこにある。
「トランプ大統領のイランとの暫定合意は世界経済の安定化への期待を高めた。しかし多くの詳細は今後の交渉に委ねられており、世界を不安定な状態に置いている。」(The New York Times)
欧州諸国はすでに独自の検証ルート確保に動いているらしい。公式の場で合意を歓迎しつつ、裏では独自のチャンネルを温存しておく——外交の世界ではよくある二重構造だが、それが公然と報じられているあたり、今回の合意への不信感がいかに根深いかが透けて見える。
湾岸産油国がいまも軍備増強の手を緩めない理由
ホルムズ海峡の通航再開への期待が高まる一方で、UAEやサウジアラビアは軍備拡張のペースを落としていないと報じられている。これはある意味で正直な反応かもしれない。原油輸送路の安全保障を米国の「合意」一枚に委ねるには、リスクが大きすぎると湾岸諸国は判断しているわけだ。
原油市場が一時的に安堵を示したのは事実だろう。ただ、「詳細未決」の合意が次の交渉でつまずいた瞬間、価格は逆方向に動く。トレーダーたちもそれはわかっていて、今は様子見の段階——そんな空気が市場には漂っているんじゃないか。
この先どうなる
次の焦点は、詳細交渉の期限がいつ設定されるかと、IAEAがどの程度の立入権限を確保できるかの二点に絞られてくる。期限なき交渉は事実上の凍結と同義で、その間にイランが濃縮活動を部分的に継続するシナリオも排除できない。欧州が独自検証ルートを急ぐのも、そのリスクヘッジだとみれば納得がいく。JCPOA崩壊から学んだ最大の教訓は「合意の文字より履行の仕組みが命綱」——各国がそれを忘れていないうちに、次の交渉が始まるかどうか。そこが当面の分岐点になりそうだ。