ホルムズ海峡封鎖が宣言された、まさにその日曜日の朝、米副大統領JDヴァンスの専用機はスイスに着陸していた。世界の石油輸送量の約20%が通過する海峡が本当に止まれば、原油市場は即座に反応するはずだった。ところが米軍は「船舶の通行は継続している」と即座に反論。封鎖は「宣言」にとどまっており、現実の海上交通への影響はまだ確認されていないらしい。

ガリバフ・アラグチが前日入り、米イランスイス協議の布陣

イラン側は土曜日の深夜にスイス入りを済ませていた。着席したのはモハンマド・バゲル・ガリバフ議会議長と、アッバス・アラグチ外相のツートップ。核交渉の経験が長いアラグチが前面に出るのは想定内だが、議会議長のガリバフが同行したのは珍しい布陣だった。国内強硬派へのアリバイ作りなのか、それとも交渉に重みを持たせたいシグナルなのか、どちらとも読める。

仲介役としてパキスタンのシェバズ・シャリフ首相と軍トップのアシム・ムニル陸軍元帥も加わった。パキスタンは今回の米イラン交渉で一貫して橋渡し役を担っており、前回の協議も同国がホストしている。パキスタン外務省は「米国とイランの合意事項の実施を引き続き支持する」と声明を出した。

「イランは、イスラエルによるレバノン南部への致死的な空爆が米国との停戦合意に違反したとして、ホルムズ海峡を閉鎖したと表明した。これに対し米軍は『船舶通行は継続している』と反論し、閉鎖の事実を否定した。」(BBC News)

ヴァンスは出発前の取材に対し、レバノン情勢について「実際には改善してきており、少し落ち着きつつある」と語った。イスラエルとヒズボラの衝突が続く中での発言としては楽観的すぎるとも取れるが、交渉を始める前に場を冷やすつもりはない、ということかもしれない。

「封鎖宣言」と「通行継続」、どちらが正しいのか

今回の最大の謎は、イランが「閉鎖した」と言い、米軍が「通行している」と言う、この食い違いだった。過去にもイランはホルムズ閉鎖を「カード」として何度か切ってきた経緯がある。実際に封鎖を実行すれば自国の石油輸出も止まるため、現実的なコストは非常に高い。今回も交渉テーブルでの圧力として機能させることが目的で、物理的な封鎖には踏み切っていない可能性が高そうだった。
ヴァンスが協議で前進を期待すると述べたのは「核問題」と「レバノン停戦問題」の2点。この2つは直接つながっているわけではないが、イラン側は「レバノン停戦の維持」を核合意の前提条件として組み込もうとしているように見える。

この先どうなる

スイスでの米イランスイス協議が具体的な成果文書にたどり着くかどうかは、レバノン停戦の現場がどれだけ落ち着くかと連動している。イスラエルが南レバノンへの空爆をやめなければ、イランは「合意違反」の旗を下ろさない。その間、ホルムズ封鎖の「宣言」は原油市場への心理的圧力として生き続ける。アラグチとヴァンスが何かしらの声明を共同で出せれば、原油価格の上昇圧力は一時的に和らぐかもしれない。逆に協議が決裂すれば、「宣言」が「実施」に格上げされるリスクは今より確実に上がる。交渉の結果は今日か明日には見えてくるはずで、まず動くのは原油先物市場だろう。