ホルムズ海峡の「通行料」という言葉が、世界のエネルギー市場を一瞬止めた。トランプ前大統領が自身のTruth Socialに投稿した内容はシンプルで、しかし読めば読むほど引っかかる。停戦期間中の60日間だけ、通行料を完全にゼロにするというものだった。

「通行料」は誰が決める権限を持つのか

国際海洋法、具体的には国連海洋法条約(UNCLOS)のもとでは、国際海峡における「通航権」は本来すべての国に無害通航として保障されている。つまり、ホルムズ海峡で通行料を徴収するという行為自体、条約上は成立しにくい話らしい。

にもかかわらず、トランプ氏が「60日間ゼロ」と打ち出したということは、裏を返せば「60日後には課金されうる」という前提を暗黙に認めていることになる。ここが調べていて一番引っかかったところで、これはイランの海峡管理権という交渉カードを、アメリカ側が事実上認知した瞬間とも読める。

停戦期間中の60日間、ホルムズ海峡での通行料は一切課さない。

この一文だけを見れば「譲歩の提示」に見える。ただ、停戦の相手方であるイランの公式反応は現時点で確認されておらず、あくまでもトランプ氏が一方的に宣言したものにすぎない。テヘランが沈黙を保っているという事実は、合意でも否定でもなく、戦略的な間合いの取り方じゃないかとみる向きもある。

世界の原油20%が通る水道、60日後の値段

ホルムズ海峡は幅最狭部で約34キロメートル。サウジアラビア、イラク、クウェート、UAEの原油輸出の大半がここを通り、世界の海上原油輸送量の約20%に相当するとされている。この海峡が「通行料のかかる水道」として固定観念化されると、輸送コストへの織り込みが始まり、原油価格の計算式そのものが変わりかねない。

トランプ・イラン停戦条件の議論では、これまで核合意の枠組みや制裁緩和が中心だったが、ホルムズ通行料という新たな変数が加わったことで、エネルギー市場のリスクプレミアムの読み方が一段と複雑になってきた。国際海洋法の観点から見ても、この言説が既成事実として積み重なれば、後から覆すのは容易ではない。

この先どうなる

最大の焦点は、イランが「通行料」という概念を対話の俎上に乗せるかどうか。乗せた瞬間、それは海峡管理権を交渉の前提として双方が認めたことになり、停戦後の60日目以降に新たな価格設定の議論が始まる可能性がある。アメリカにとってもリスクはあって、同盟国の日本や韓国、欧州のエネルギー調達コストに直接はねかえる話でもある。

テヘランの返答がいつ、どんな形で出てくるか。あるいは出てこないまま60日間が静かに過ぎるのか。どちらに転んでも、「ホルムズ海峡に通行料が存在しうる」という言説だけは、もう世界地図に刻まれてしまった感がある。