123協定をめぐる交渉が、いよいよ正念場を迎えた。米国とサウジアラビアが民間核協力協定の締結に向け最終段階に入ったとロイターが報じたのは、中東をめぐる大型の外交パッケージ交渉が加速しているタイミングだった。最大の障壁はサウジ側が求めるウラン濃縮権の維持で、ここに合意するかどうかで協定の意味がまるで変わってくる。
サウジ核協力の「ウラン濃縮権」がなぜここまで問題になるのか
123協定とは、米国が外国と民間核協力を行う際の根拠となる二国間協定で、原子力法第123条に由来する。通常、核不拡散を条件として濃縮・再処理を禁じる「ゴールドスタンダード」と呼ばれる厳格な条項が盛り込まれる。アラブ首長国連邦はこれを受け入れ協定を締結した実績があるが、サウジアラビアはウラン濃縮権の放棄を拒んでいるとされる。
調べてみると、サウジには国内に大規模なウラン鉱床が確認されており、将来的な核燃料サイクルの自国管理を視野に入れた要求でもあるらしい。ただし濃縮技術はそのまま核兵器用高濃縮ウランの製造にも転用できる。非拡散の専門家が「抜け穴になる」と警戒するのはその一点に集中している。
「米国とサウジアラビアは民間核協力に関する合意に近づいている。事情に詳しい関係者がロイターに語った。これは中東を再編しうる、より広範な交渉の一部だ。」(ロイター)
この「より広範な交渉」というのがポイントで、トランプ政権はサウジとイスラエルの国交正常化、米軍の安全保障コミットメント強化、そして核協力を一括りにしたパッケージ交渉を進めている。核協力は取引のカードの一枚として使われている格好で、非拡散原則よりも外交上の成果が優先されるリスクが現実味を帯びてきた。
イランの核開発と連動する「中東核ドミノ」シナリオ
サウジのムハンマド・ビン・サルマン皇太子は以前、「イランが核兵器を持てばサウジも持つ」と明言している。イランの核開発をめぐる緊張が依然として続く中で、世界最大の原油輸出国が濃縮技術を手にした場合、エジプトやトルコなど周辺国も「なぜ我々だけ」という動きに出る可能性がある。核不拡散の文脈でよく語られる「ドミノ論」が、この地域で現実のシナリオとして浮上しつつある。
サウジ核協力の議論はオバマ政権時代から続いてきた経緯がある。それでもまとまらなかったのは、ウラン濃縮権という一点で双方が譲らなかったからだ。トランプ政権が「ここで妥結する」と判断した場合、それは核不拡散体制に対する米国のコミットメントそのものが変質したことを意味するんじゃないか、という見方も出ている。
この先どうなる
合意が近いとされる一方、米議会には超党派で懸念する声があり、123協定は上院の承認が必要なプロセスとなる。ウラン濃縮権をどこまで認めるかという条件次第で、批准の行方は見通せない。イスラエルとの国交正常化という「大きな絵」が先行する中で、核不拡散の条項がどこまで守られるかが焦点になってくる。もし濃縮権を認める形で123協定が締結されれば、それはアラブ世界初のケースとなり、中東の核をめぐる地図は今後数年で相当変わりそうだ。