ホルムズ海峡封鎖の宣言から数日、インドのタンカー3隻が何事もなかったかのように海峡を抜けた。Bloombergが衛星データをもとに報じたもので、世界の石油輸送量の約20%が行き交うこの航路では、週末を通じて数百万バレルの原油が滞りなく動き続けていたらしい。テヘランが「閉鎖した」と言い、ワシントンが「開かれている」と言う。どちらが正しいかは、タンカーの航跡が答えを出してしまった格好だ。
インド船3隻が示した「封鎖の穴」
今回確認されたのはインド籍のタンカー3隻。イランが閉鎖を宣言した直後にもかかわらず、海峡をほぼ通常ルートで通過している。衛星追跡サービスの記録では速度低下も迂回もなく、拿捕や警告を受けた形跡も見当たらなかった。
原油輸送の中東ルートを押さえるホルムズ海峡は、物理的に封鎖するとなれば機雷敷設や艦艇による実力阻止が必要になる。そういった動きは今のところ確認されていない。「宣言はあったが、実行はなかった」というのが現時点での実態に見える。
「イランが再び海峡を閉鎖したと主張した後も、今週末、ホルムズ海峡を通じて数百万バレルの石油が流れ続けた。世界で最も重要な航路の現状をめぐり、ワシントンとテヘランが相反する説明を打ち出している。」(Bloomberg)
米軍の第5艦隊がバーレーンに展開し、周辺海域に空母打撃群を維持しているなかで、イランが実力行使に踏み切るコストは相当に高い。封鎖を「演じる」だけで交渉上の圧力を生み出せるなら、リスクを冒して本当に封鎖する必要はないという計算が働くのは自然だろう。
「閉鎖カード」は使い続けられるのか
問題は、この手が何度も使えるわけではないという点だ。宣言と現実の乖離が衛星データで可視化される時代、「閉じた」と言っても船が通り続ければ誰も信じなくなる。エネルギー市場もすでに織り込みを始めていて、今回の「封鎖」宣言後も原油価格の反応は限定的だったと伝えられている。
イランにとって、ホルムズは最後の切り札のはずだった。それを「脅し」として繰り返すほど、カードの値打ちは下がっていく。テヘランが本当に追い詰められたとき、市場と外交の双方がどこまで反応するか、今はそれを試されている局面ともいえる。
この先どうなる
直近ではスイスで署名された枠組み合意の行方が焦点になる。合意が実効性を持てば、ホルムズをめぐる緊張は段階的に緩和に向かう可能性がある。一方でトランプ政権が署名を保留したままの条件が残っており、テヘランとしては「閉鎖カード」をもう一枚手元に残しておきたい事情もあるだろう。
衛星データと報道が宣言の虚実をリアルタイムで暴く環境下では、イランの情報戦はじわじわと信頼性を失っていく。次の宣言が出たとき、市場も外交団も「また来た」と受け取るようになったとき、テヘランに残る手はずいぶん少なくなっているんじゃないか。