エボラ出血熱が猛威を振るうコンゴ民主共和国東部で、6歳の感染女児が武装集団に病院ごと奪われた——そう表現するほかない事件が起きた。死者230人超、感染者890件。数字だけ見れば深刻なアウトブレイクだが、現地で起きていることはウイルスとの闘いだけではなかった。
ブテンボ病院に武装集団、女児と母親を強制連行
地元保健当局のルバンボ・マボコ・ガストン医師によると、コンゴ東部の都市ブテンボにあるエボラ治療施設に「非常に激昂した状態」の男たちが押し入り、治療中の女児とその母親を連れ去ったのは今週初め。男たちと女児の関係は現時点で不明だが、施設側が追う間もなかったとみられる。
女児は2日後、ブテンボから約18キロ離れた別のエボラ治療センターで発見された。ガストン医師がBBCに語ったところでは——
「現在、女児の状態は安定していると判断されている」
最悪の事態は免れた。ただ、感染した6歳児が治療から切り離されて18キロを移動したという事実は、接触者追跡(コンタクトトレーシング)という封じ込めの根幹を揺るがす。誰が女児に触れ、どこを経由したか——その空白が次の連鎖感染につながりかねない。
放火・遺体奪還・拉致——施設攻撃はこれが初めてじゃない
今回の拉致事件は、決して孤立したケースではなかった。感染症アウトブレイクの現場では、ここ数週間だけでも複数の深刻な事態が続いている。
先月、モンブワル近郊では警察が空に向けて発砲。治療施設で亡くなった遺族が遺体を取り戻そうと集まり、群衆が制御不能になったためだった。エボラ感染者の遺体は高い感染リスクを持つため、家族が伝統的な方法で弔うことが許可されていない。その規制が激しい反発を呼んでいる。
さらに別の町ルワンパラでは、隔離テントへの放火が発生。遺体の引き取りを拒否された人々が、施設に火を放った。コンゴ民主共和国ブテンボを中心とした地域で、医療施設そのものが標的になる構図が繰り返されている。
背景にあるのは「エボラ治療施設に入ったら戻ってこられない」という根強い不信感だ。過去のアウトブレイクや内戦の記憶が積み重なり、外部からやってくる医療チームへの警戒心は容易には解けない。施設への疑念が、感染者を「救出」しようとする行動に変わる——その心理的プロセスは理解できなくもないが、結果としてウイルスの拡散を加速させる。
この先どうなる
世界保健機関(WHO)や国境なき医師団は引き続き現地で活動しているが、治療施設への物理的な攻撃が続く限り、スタッフの安全確保と感染者の収容能力を同時に維持するのは難しい。コンゴ民主共和国のアウトブレイクは過去にも長期化した例があり、地域コミュニティとの信頼構築なしに数字だけで封じ込めを語っても意味をなさない、というのが専門家の一致した見方だ。
今回の女児が無事に発見されたのは、せめてもの朗報だった。ただ、次に連れ去られた人が同じように見つかる保証はない。