ホルムズ海峡再開通の観測が広がるなか、原油市場は今年最大規模の週間下落を記録しつつある――ブルームバーグが報じた動きは、エネルギー市場の空気を数日で一変させた。米・イラン間の協議が合意に近づいているとの見方から投資家が一斉にポジションを巻き戻し、需給緩和への期待が価格を押し下げている。
世界の原油の2割が通る「栓」が抜けたら何が起きるか
ホルムズ海峡は、サウジアラビア・UAE・クウェートなど湾岸主要産油国の輸出が束になって通過する、文字どおりの「栓」だ。エネルギー輸送量の約20%がここを経由するとされており、封鎖状態が解消されれば産油国の輸出余力は一気に回復する。原油週間損失が膨らんでいる背景には、その「栓が抜ける」シナリオへの読みが急速に織り込まれていく様子が透けて見える。
供給が増えれば当然、下流にも波が来る。ガソリン・軽油・ジェット燃料の価格が下がれば、各国の消費者物価指数を押し下げる方向に働く。物価が落ち着けば、利下げを急ぐ理由が生まれる中央銀行も出てくる。原油の一値動きが金融政策まで引っ張る構図は、2022年の逆回転でもう一度証明されたかたちだ。
ボルトンが「自傷行為」と切り捨てた理由
こうした楽観ムードに真っ向から水を差したのが、元国家安全保障担当大統領補佐官のジョン・ボルトンだった。ブルームバーグの番組『バランス・オブ・パワー:イブニング・エディション』に出演した同氏は、
「これこそまさに自傷行為だ」
と言い切った。ボルトン氏の論点は単純ではない。イランに制裁圧力を緩める形での合意は、核開発抑止の枠組みそのものを骨抜きにしかねないという見立てだ。制裁が外れれば、イランはその資金を核・ミサイルプログラムに回す余力を取り戻す――というのがタカ派の一貫した読み筋で、ジョン・ボルトン自身は長年その筆頭格として知られてきた。
もちろん反論もある。「現状維持こそが地域の不安定化を招く」という実務派の声も根強く、今回の交渉がどちらの評価に軍配を上げるかは、中身次第だ。交渉の詳細は依然として非公開部分が多く、楽観シナリオが足元で走り過ぎている可能性も否定できない。
この先どうなる
原油週間損失がこのまま確定するかどうかは、週末以降の交渉続報にかかっている。合意が正式に署名されるか、あるいは条件面で暗礁に乗り上げるか、どちらの展開もまだ十分にあり得る状況だ。ホルムズ海峡再開通が実態を伴う形で進めば、原油価格の水準訂正は長期化するだろう。一方で地政学リスクが再燃した場合、価格は一日で急反発する。市場が今「最悪を織り込み終えた」と思い込んでいるなら、そこに最大のリスクが潜んでいるかもしれない。