モジュタバ・ハメネイが声明を出した。しかもタイミングが絶妙すぎた。米中央軍がイランへの海軍封鎖の終了をXで公式発表した直後、就任後一度も公の場に姿を見せていなかったイランの最高指導者が、初めて口を開いたのだ。

「絶望から圧力を使った」—モジュタバ・ハメネイの初声明が示すもの

米中央軍は「大統領の指示に従い」海軍封鎖を終了したと発表した。一部の艦艇は「周辺海域に留まる」としているが、封鎖そのものは解かれた。中東戦争の停戦合意がいよいよ実行段階へ入った、という空気が流れた矢先の発言だった。

「トランプ大統領は絶望から、あらゆる種類の圧力を使った」—モジュタバ・ハメネイ(BBC報道より)

ハメネイ師は合意に「異なる見解を持っていた」と認めつつも、ペゼシュキアン大統領から「イラン国民の権利を守る」との確約を得た上で承認したと説明した。ただし、その言葉を額面通りに受け取る者はほとんどいないんじゃないか。「今後の直接交渉も、敵の立場を受け入れることを意味しない」という一文が、師の本音を雄弁に語っている。

父の死から3か月、なぜ今このタイミングで発言したのか

ここが引っかかった点だった。モジュタバ・ハメネイが最高指導者に就いたのは3月。父アヤトラ・アリー・ハメネイが2月28日の米・イスラエル合同空爆で死亡した後を受けてのことだ。それ以来、公の場には一切姿を見せていなかった。停戦合意への反応もなかった。

沈黙を破ったのが、封鎖解除の発表直後というのは偶然ではないらしい。米海軍封鎖解除というイランにとって「形の上での勝利」を演出する場面に乗じながら、合意の評価を自ら書き直した格好だ。「我々は負けたわけではない。相手が焦って妥協してきた」という物語を国内向けに提示したかった、そう読むと筋が通る。

トランプはこれに直接反論せず、Truth Socialに「停戦は全戦線で発効する見通し」と投稿するにとどめた。イラン、レバノンのヒズボラを含む全域での停戦維持への期待を示したが、ハメネイ声明への言及はなかった。いわば無視に近い対応だった。

イラン停戦合意の文書が署名され、海軍封鎖が解除されても、最高指導者の初声明が「敗北ではない」の証明に費やされる—停戦後の中東がいかに複雑な地層を抱えているか、この一連の流れが端的に示していた。

この先どうなる

米・イラン間の「直接交渉」は今後行われる見通しだが、ハメネイ師が早々に「それは敵の立場の受け入れではない」と釘を刺している以上、交渉のテーブルに着くこと自体が国内政治的な綱渡りになる。ペゼシュキアン大統領が「国民の権利を守る」と約束した内容の詳細も、まだ明かされていない。イスラエルとヒズボラの間の停戦が本当に全域で機能するかも未確認のまま。合意の「実行段階」は始まったが、最大の不確定要素は、テヘランの内側にあるかもしれない。