米イラン予備合意の文書が、G7サミット閉幕と同時に公表された。46兆円規模の復興資金と、60日間の核協議という組み合わせ。数字だけ見ればスケールは大きい。ただ調べると、肝心なところが抜けている。
3000億ドルの内訳と「60日」という賭け
3000億ドル復興計画は、制裁解除によって解放されるイランの凍結資産と、国際的な民間投資を組み合わせる構想とみられている。インフラ、エネルギー、医療インフラへの投資パッケージとして提示されており、イラン側に「経済的な勝利」を演出する狙いが透けて見える。
一方の60日協議は、核プログラムの段階的封じ込めを交渉するためのウィンドウとして設定された。ただ、60日という期限が現実的かどうかは別の話だ。2015年のJCPOA(核合意)交渉は1年半かかっている。今回はその3分の1以下の時間で「決定的な枠組み」を作ろうとしている計算になる。
「米政府当局者は予備合意のテキストとされるものを提示した。そこにはイランの復興に向けた3000億ドル規模の計画と、核プログラムに関する60日間の協議が盛り込まれていた」(The New York Times)
短期決戦には理由がある。トランプ政権にとって、核交渉の長期化は国内政治上のリスクになる。議会の反発、強硬派の批判、そして2026年中間選挙を見据えれば、「合意した」という既成事実を早期に作りたいというインセンティブが働く。
合意文書に書かれていない三つの空白
ここが引っかかった部分だ。公表された予備合意には、少なくとも三つの重要事項が明示されていない。
一つ目は革命防衛隊(IRGC)の扱い。IRGCは米国がテロ組織に指定した組織で、制裁解除の対象にするかどうかはイラン側の最重要要求のひとつ。文書に名前がないということは、この問題が先送りされているか、交渉テーブルに乗っていない可能性がある。
二つ目は濃縮ウランの処理方針。現在イランは60%濃縮ウランを保有しており、核兵器転用に必要な90%まで技術的な距離は短い。これをどこへ移すか、あるいは稀釈するかについて、合意文書は沈黙している。
三つ目はイスラエルの反応。中東最大の同盟国であるイスラエルは今のところ公式コメントを出していない。沈黙は容認ではなく、水面下での働きかけが始まっているとみるほうが自然だろう。
この先どうなる
60日の時計はまもなく動き出す。核協議60日のカウントダウンが始まれば、最初の30日で双方の「レッドライン」が試され、残り30日で本当に合意できるかどうかが見えてくる。
3000億ドル復興計画が本格交渉の入り口になるか、それとも交渉を引き延ばすための「にんじん」で終わるかは、IRGCと濃縮ウムの二つの問題をどう扱うかにかかっている。歴史的に中東の枠組み合意は、書かれなかった条項によって崩れてきた。今回もそのパターンをなぞるかどうか、60日後に答えが出る。