FISA(外国情報監視法)の更新交渉が、トランプ前大統領の一投稿で一気に政治の火種になった。2025年5月、トランプ氏はTruth Socialに「民主党がFISAを欲しがっているのは、第一期政権の3年間、私を追い詰めるために使ったツールだからだ」と書き込み、現在進行中の更新協議に真っ向から噛みついた格好だ。

「3年間の監視」——トランプが突きつけた取引の条件

トランプ氏が要求として掲げたのが、有権者ID法の制定との抱き合わせだ。「FISAの更新を認めるなら、有権者IDをセットにしろ」というのが彼の立場らしい。有権者IDは選挙の不正防止を名目に共和党が長年求めてきた政策で、民主党は少数派・低所得層の投票抑制につながると反発している。つまりこの交渉、諜報法制と選挙制度改革を一本のロープで縛ろうとしているわけだ。

「民主党がFISAを欲しがっているのは、第一期政権の3年間、私を追い詰めるために使ったツールだからだ」——Donald J. Trump(Truth Social)

FISAはもともと外国勢力や外国エージェントを対象とした諜報法制で、通常の令状手続きを経ずに通信傍受を可能にする強力な枠組みだ。ただ「外国エージェントと接触した米国市民」にまで対象が広がり得るグレーゾーンがあり、ACLUなどの人権団体は長年この点を問題視してきた。トランプ陣営が標的にされたとするロシア疑惑捜査でも、FISAの令状がカーター・ペイジ元顧問への監視に使われたことが後に判明している——その文脈を知ると、今回の投稿がただの感情論でないことが見えてくる。

FISAリーウォール更新交渉、議会が直面する板挟み

FISAリーウォール更新交渉は、超党派での合意が必要な案件だ。共和党内にも「諜報機能を維持すべき」という安全保障タカ派と、「令状なし傍受は市民の自由を侵害する」というリバタリアン系の議員が混在していて、党内一枚岩ではない。そこにトランプ氏が有権者ID法を条件として投げ込んだことで、交渉のテーブルがさらに複雑になった。民主党からすれば、FISAは諜報上の必要性から支持しつつも、有権者IDとの取引には乗れないというジレンマを抱える。

また、トランプ氏が「悪用された」と訴えるFISAの問題は、彼個人の政治的スタンスにとどまらず、監視国家の是非という普遍的な問いとも重なってくる。セカンダリな話に見えるが、外国情報監視法の運用基準をめぐる議論は、米国市民のプライバシー権の範囲を実質的に決める話でもある。

この先どうなる

議会での交渉は、トランプ氏の発言を受けて共和党内の足並みがさらに乱れる可能性が高い。有権者ID条件を飲める民主党議員はほぼいないため、FISAの更新自体が暗礁に乗り上げるシナリオも現実味を帯びてきた。一方、更新が失効すれば諜報機関の対外監視能力に実質的な空白が生じるリスクもある。安全保障と市民の自由、そして選挙制度改革が三つ巴になったこの交渉、着地点が見えるのはまだ先になりそうだ。