米イラン暫定合意の署名から一夜明けた月曜、株式と債券はともに上昇した――が、それは「歓喜」ではなかった。市場が選んだのは、静かな警戒だった。

ホルムズ海峡が刻んだ傷、紙一枚で消えるか

今回の紛争で投資家が真っ先に意識したのは、ホルムズ海峡サプライチェーンへのダメージだった。世界の石油輸送量の約2割が通過するこの海峡が揺らぐと、エネルギーコストは即座に跳ね上がり、その影響は輸送費、製造コスト、そして最終的に消費者の手元まで届く。停戦合意が出たとしても、すでに動いてしまったコストの連鎖はリセットされない。
Bloombergの報道を参照すると、市場参加者はこの点を冷静に見ている。

「債券・株式は上昇した一方で、インフレへの懸念から投資家は依然として慎重な姿勢を崩しておらず、市場参加者らは紛争による経済的余波が未解決のままだと警告している」(Bloomberg、2026年6月15日)

エネルギーコストの高止まりに加え、紛争中に迂回ルートへ切り替えた輸送業者がすぐに元のルートへ戻れるわけでもない。保険料の上昇、航路変更で増えた燃料費、そうした「じわじわ型」の上昇圧力がインフレ長期化を招く可能性があるとみられている。

2022年ウクライナ後の「早合点」と同じ轍を踏むか

投資家の脳裏にあるのは、4年前の苦い記憶だろう。2022年2月にロシアがウクライナに侵攻した際、市場は衝撃を受けた後、一時的に「地政学リスク相場は長続きしない」という楽観論に傾いた。ところがエネルギー・食料品のインフレは想像以上に長く続き、中央銀行は急激な利上げを強いられた。ポートフォリオへの打撃は相当だった。
今回も同じ構図がある。米イラン暫定合意というニュースヘッドラインに引きずられてポジションを楽観方向に傾けると、インフレ長期化の現実に後から痛烈な修正を食らうリスクがある。「またか」と思っている投資家が少なくないからこそ、月曜の上昇幅は限定的だったのかもしれない。

この先どうなる

注目ポイントは三つある。まず原油価格の動向。ホルムズ海峡が実際に正常化されるまでの期間が長引けば、エネルギーコストは下がりにくい。次に米連邦準備制度(FRB)の出方。インフレ長期化が鮮明になれば、利下げ転換のタイミングがさらに後ろ倒しになる可能性がある。そして「暫定」という言葉の重さ。今回の合意はあくまで暫定であり、核問題や制裁をめぐる本交渉はこれからだ。ホルムズ海峡サプライチェーンが本当に安定を取り戻すかどうかは、交渉テーブルの外の現実が決める。停戦後の市場こそ、次の地雷原かもしれない。