ロベルト・フィツォが複数の銃弾を受けたのは、政府会合を終えて支持者に歩み寄った、ほんの数十秒の間だった。2024年5月、スロバキアの地方都市ハンドロヴァ。白昼の路上で現職首相が倒れる光景は、欧州中の首脳に衝撃を与えた。犯人はその場で取り押さえられたが、「なぜ今」「なぜこの人物が」という疑問は消えない。
フィツォとはどんな政治家だったか――EU内の「異端児」
フィツォ氏はEU加盟国のなかで最も露骨にウクライナへの軍事支援に反対してきた指導者の一人だった。「スロバキアは他国の戦争に武器を送らない」と公言し、NATO各国の支援路線とは一線を画してきた経緯がある。
その姿勢は国内でも賛否を割っていた。親ロシア的な言動を支持する層は少なくなかった一方、EU志向の野党や若年層からは強い反発を受けていた。つまりフィツォ氏は、単なる政治家ではなくスロバキア社会の断層そのものを体現していた人物、ともいえる。
「スロバキアのロベルト・フィツォ首相が、ハンドロヴァの町での政府会合後に銃撃され、負傷した。」(AP通信)
APが報じたこの一文は短いが、その重みは別格だった。NATO加盟国の現職首相が路上で撃たれるというのは、冷戦後の欧州でほぼ前例がない事態だったからだ。
スロバキア銃撃が東欧の「亀裂」を一気に広げた理由
欧州各国首脳は相次いで遺憾の意を表明した。だが水面下では、この事件が持つ政治的な含意を各国が素早く計算していたはずだ。
フィツォ氏が長期離脱または失職した場合、スロバキアの対ロシア政策は転換を迫られる可能性がある。それはウクライナへの支援ルートや東欧内のNATOの結束にも影響する話で、ブリュッセルにとって無視できない変数になる。一方でロシア側にとっては、西側の不安定さを強調するための「情報戦素材」として格好の事件ともいえた。
スロバキア国内では早くも政治的空白を埋めようとする動きが出始めていたと報じられた。だが権力の空白期間というのは往々にして、最も予測不能な事態が起きやすいタイミングでもある。
この先どうなる
フィツォ氏の容態次第では、スロバキアの政権運営は副首相ら代行体制に移る公算が大きい。その場合、親ロシア路線が維持されるかどうかは不透明で、東欧政治危機として国際的な注目は当面続くとみられる。
犯行動機の全容解明も急務だ。単独犯なのか、背後に組織的な意図があるのか――捜査の行方によっては、欧州全体の政治的緊張感が一段階上がることも十分ありうる。スロバキア銃撃という一点が、どこまで波紋を広げるか。しばらく目が離せない。
