ホルムズ海峡封鎖解除——その言葉が、ついて現実の地図に乗り始めた。パキスタンが仲介役を務めた米・イラン交渉で、両国が和平合意の「最終」案テキストに合意したとAPが報じたのは2026年6月12日のこと。世界の石油輸送量の約20%が通過するこの海峡が再開されれば、封鎖長期化で高騰し続けてきた原油価格に、構造的な緩和圧力がかかる。

パキスタンはなぜ仲介できたのか——米・イランの「第三者」事情

米国とイランの直接対話が難しい理由は、今さら説明するまでもない。国交は1980年から断絶したままで、それぞれの国内政治が「対話した」という事実そのものをコストにしてしまう。だからこそ第三者が必要で、今回パキスタンが選ばれた背景には、イランと陸続きで接しながらも米国とも安全保障上の関係を維持してきた地政学的な立ち位置がある。アラブ首長国連邦でもオマーンでもなく、パキスタンだったのは偶然じゃないらしい。外交筋が「イスラム圏内の信頼」と「西側との回線」を同時に持てる数少ない国、とこの構図を読んでいたのはうなずける。

「パキスタンは、米国とイランが和平合意の『最終』案テキストに合意したと発表した。この進展により、ホルムズ海峡の再開につながる可能性がある。」(The Associated Press、2026年6月12日)

ただし「最終案に合意」と「合意の履行」の間には、これまで何度も深い溝が口を開けてきた。2015年のJCPOA——イラン核合意——は当初「歴史的な合意」と称えられたが、2018年にトランプ政権が離脱し、その後のバイデン政権下での再交渉も結実せず崩壊した。今回の米イラン和平合意も、その記憶と切り離して読むことはできない。

革命防衛隊という「合意外の火種」

調べていて最も引っかかったのは、イラン革命防衛隊(IRGC)の扱いだった。IRGCは今回の交渉テーブルに着いておらず、事実上の合意プロセスの外に置かれている。IRGCはホルムズ海峡の実質的な軍事管理を担ってきた組織で、彼らが封鎖継続の「実行部隊」でもあった。最高指導者ハメネイ師の政治的承認と、IRGCの現場対応は、必ずしも同じ方向を向くとは限らない——この構図は2012年前後の制裁交渉時にも繰り返し確認されてきたことだ。

エネルギー市場はすでに神経質な反応を見せている。封鎖長期化で原油価格は高止まりを続けており、合意報道だけでも先物市場には下押し圧力がかかるとみられる。ただ、「合意」から「ホルムズ開通」までのタイムラインが不明確なうちは、トレーダーも全力で動けないのが実情だろう。

この先どうなる

焦点は二つに絞られる。一つは合意テキストの「中身」——核開発の制限範囲、制裁解除のスケジュール、そしてIRGCへの拘束力があるかどうか。もう一つは、イラン国内の強硬派が「合意」を政治攻撃の材料に使うかどうかだ。歴史は、ここで繰り返しやすい。パキスタン仲介という新しい経路で生まれた米イラン和平合意が今度こそ持続するか、それとも次のJCPOAになるか——世界が固唾を飲んでいるのは、ホルムズ海峡の水面だけじゃなさそうだ。