パトリオット迎撃弾の不足が、ウクライナの空を急速に薄くしている。ニューヨーク・タイムズが6月13日に報じたところによれば、米国製パトリオットの迎撃弾在庫は枯渇寸前に達しており、ウクライナ側は追加供与を強く求めているという。1発あたり約400万ドル。撃てば弾庫が減り、撃たなければ都市が燃える——その二択を突きつけられている状況だ。
ロシアの弾道ミサイル飽和攻撃、1発400万ドルの壁
ロシアが採っている戦術は明快だった。弾道ミサイルを大量に連射し、迎撃システムを「弾切れ」に追い込む。ロシア側のミサイル1発のコストはパトリオット迎撃弾の数分の一から数十分の一とも試算されており、この非対称コスト構造がウクライナ防空の枯渇を加速させているらしい。
欧米の防衛産業は増産協議を進めているが、製造ラインの制約は深刻で、即座に補充できる見通しは立っていない。工場のキャパシティは平時の需要に合わせて設計されていたため、戦時ペースへの切り替えには時間がかかるというのが各国政府の認識のようだ。
「ウクライナは米国製パトリオット防空迎撃ミサイルを使い果たしつつあり、追加供与を強く求めている。」(The New York Times)
この数字の非対称性はウクライナだけの問題じゃない。NATO各国も同じ構造的な課題を抱えているわけで、防空体制の見直しは東欧だけにとどまらない議論になりつつある。
NATO29カ国が問い直す「高価な盾」の限界
ウクライナ防空の枯渇が露わにしたのは、近代防空システムの根本的なジレンマだった。高性能な迎撃弾は「一発必中」を前提に設計されているが、相手が「百発連射」で来る場合には在庫が先に尽きる。
これはウクライナに固有の話ではなく、NATO全体が抱える防衛調達の問題でもある。欧州各国は冷戦終結後に防衛費を削り、弾薬在庫を絞り込んできた経緯があった。ロシアの飽和攻撃というシナリオは、その「在庫の薄さ」を容赦なく突いてきている格好だ。
加えて、ウクライナへの供与が続けば、供与国自身の在庫も目減りする。「ウクライナを守りながら自国も守る」という二重の需要に、現在の生産体制が追いついていないという見方も出ている。
この先どうなる
短期的には、米国や欧州同盟国がどれだけ迅速に追加供与を決断できるかが焦点になるだろう。ただし、製造ラインの拡張は数カ月から数年単位の話で、即効薬はなさそうだ。
中期的には、レーザー兵器や電磁パルス型の迎撃手段など、コストが低く「撃ち放題」に近い防空技術の開発・実戦投入が加速する可能性がある。すでに米英はそうした方向への投資を増やしていると報じられている。
ウクライナの空がどこまで守られるかは、兵器の性能よりも「補給の速度」と「財布の深さ」にかかっているといえる。パトリオット迎撃弾の不足が示したのは、最強の盾も補充がなければただの飾りになるという、当たり前だけど重い事実だったかもしれない。