イラン核交渉が「合意間近」だと最初に聞いたとき、正直引っかかった。同じ言葉を、過去何度聞かされただろう。トランプ大統領は強い口調で交渉の進展を強調したが、イラン外務省報道官は同じタイミングでこう語った。

「何も最終決定されていない」(イラン外務省報道官、The New York Times 2026年6月12日)

両者の発信がここまで食い違うのは、単なるニュアンスの差ではなさそうだった。条件の詳細は一切公表されておらず、どちらの主張が事実に近いのかを裏付ける文書は、今のところ存在しない。

世界原油の2割が通るルート、その交渉が止まったら

舞台となるのはホルムズ海峡。世界の原油供給の約2割がここを通過する。交渉が崩壊した場合、原油市場への影響は即時で、金融市場への波及もほぼ時差なしに来るとみられている。

トランプ停戦発言が飛び出すたびに相場が反応してきた経緯があるだけに、今回の「食い違い」も市場参加者は相当神経質に見ているはずだ。楽観と悲観が一日で入れ替わる展開も、十分ありえる。

「間近」と言われた翌日に決裂した、あの前例

歴史を引っ張り出すと、交渉が「間近」と報じられた直後に破談になったケースは一度や二度じゃない。2015年のJCPOA合意に至るまでも、「あと一歩」という報道が何度流れたか。そのたびに期待と失望が繰り返された。

今回がそのパターンに当てはまるかはまだわからない。ただ、イラン側が「未確定」と明言しているのに、アメリカ側が「間近」と発信し続けるなら、どちらかが交渉カードとして情報を使っている可能性は高い。ホルムズ海峡リスクを背景にした心理戦、といった見方もできる。

この先どうなる

次の焦点は、両国が協議内容を部分的にでも公開するかどうか。条件の輪郭が見えてきたとき、初めて「間近」か「未確定」かの答え合わせができる。それまでは、トランプ発言一つで相場が動く不安定な状態が続く見通しだ。イラン核交渉の行方次第でホルムズ海峡の緊張度が変わり、原油価格・株式市場の両方を揺さぶる展開は、来週以降も続くとみておいた方がいい。静かな海峡が今、一番騒がしい。