米国債務上限の交渉が再び崖っぷちに差し掛かった。財務省が「特別会計措置は数週間で尽きる」と異例の時間軸を示したのは先週のこと——議会が動かなければ、米国債の利払い停止という前例のない事態が現実になりかねない。
2011年の再来か S&P格下げが招いた15%株安の記憶
14年前を振り返ると、今回の緊張感がわかりやすい。2011年夏、ギリギリまで合意が遅れた債務上限交渉を受け、S&Pは米国債を歴史上初めて最上位「AAA」から格下げした。翌週の世界株式市場は軒並み15%超下落。投資家が「米国債は安全資産」という前提を問い直した瞬間だった。
当時との違いは、今の方が政治的分断が深いかもしれない点にある。共和党は歳出削減の規模にこだわり、民主党はそれを拒む。数字の差というより、選挙を見据えた「見せ場の確保」が優先されているようにも見えた。
「財務省当局者は、数週間以内に特別措置が尽きる可能性があると警告している」(Financial Times)
この「数週間」という言葉が効いている。期限が遠ければ市場は無視するが、具体的な時間軸が示されると話が変わる。デフォルトリスクを織り込もうとする動きが債券市場で出始めると、短期国債の利回り上昇→株安→ドル売りという連鎖は速い。
日本や新興国にも飛び火する「ドル信任クライシス」の怖さ
もし数日でも利払いが止まったら、何が起きるか。真っ先に打撃を受けるのは、外貨準備の大半を米国債で持つ国々だ。日本は約1兆ドル規模の米国債を保有する世界最大級の債権国。評価損が膨らめば、財務省としても無傷ではいられない。
新興国はさらに厳しい。ドルで債務を抱えている国が多く、ドル基軸体制への信頼が揺らぐと、自国通貨の急落と資本流出が同時に起きるシナリオが想定される。「米国債は安全だから持つ」という世界の暗黙の合意が崩れた時のコストは、誰も正確に計算できていない。
ここで引っかかったのが、交渉の「チキンゲーム」的な性質だ。両党とも本音ではデフォルトを望んでいないはずなのに、最後の瞬間まで譲らない構造が繰り返される。市場が本格的に動揺し始めて初めて政治家が動く、という2011年型のパターンが今回も踏襲されるとしたら、「土壇場合意」になる可能性が高い——ただし、その「土壇場」がいつかは、誰にもわからない。
この先どうなる
焦点は今後2〜3週間の議会動向に絞られる。ホワイトハウスと共和党指導部の協議が加速しているとの報道もあり、何らかの「つなぎ合意」が先行して成立するシナリオが現時点では最も現実的とみられている。ただ、仮に合意が成立しても、財政規律への不信が残れば、ムーディーズやフィッチによる米国債格下げ検討が続く可能性がある。格付け会社の動きは議会とは別の時計で動いており、そちらも無視できないところだ。
