米イラン軍事衝突が、報復の連鎖という最も制御しにくい段階に入った。米軍がイランのヘリコプター撃墜に対する報復として南イランへの直接攻撃を実施、イランは即座にバーレーンとヨルダンの米軍施設へドローンとミサイルを撃ち込んで返したとニューヨーク・タイムズが報じた。停戦合意の翌日から始まったこの攻防、もはや「交渉の余地がある段階」とは言いにくい。
バーレーン米第5艦隊司令部への直撃——これは「脅し」じゃない
イランが攻撃先に選んだのが、バーレーンという点が重い。ここには米第5艦隊の司令部が置かれており、中東全域の海軍作戦を統括する実質的な「頭脳」にあたる。過去のイランによる報復攻撃が象徴的・限定的なケースが多かったのとは、質が違う。
ヨルダンへの攻撃も見逃せない。ヨルダンは比較的親米路線を維持してきた国で、今回の標的に含まれたことで、イランが「周辺国ごと巻き込む」シナリオを選び始めた可能性がある。外交筋からすれば、これは交渉テーブルを蹴ったに等しい動きだろう。
「米軍は南イランを攻撃し、米ヘリコプターの撃墜への報復と位置づけた。イランは、バーレーンとヨルダンの米軍施設に向けてドローンとミサイルで報復したと発表した。」(ニューヨーク・タイムズ、2026年6月10日)
ヘリ撃墜→南イラン爆撃→バーレーン・ヨルダン攻撃、というサイクルが24時間以内に完結してしまった。これが今の状況の怖さで、どこかで「一拍置く」タイミングが完全に失われつつある。
ホルムズ海峡リスクが原油市場を直撃する3つの理由
世界の原油輸送の約2割がホルムズ海峡を通過している。イランが海峡封鎖を選択した場合、サウジアラビア・UAE・クウェート・イラクからの石油輸出が物理的に止まる。代替ルートであるサウジのパイプラインは容量的に全量を補えない。
もう一つ気になったのが、バーレーン米軍基地攻撃の波及効果。米第5艦隊の機能が低下すれば、ペルシャ湾内の哨戒・掃海能力が落ち、タンカーの安全確保が困難になる。保険会社が湾内航行を「戦争リスク区域」に指定すれば、タンカー運賃が跳ね上がり、物理的な封鎖がなくても原油価格に上昇圧力がかかる仕組みだ。
3点目は心理的なもの。市場は「万が一」を織り込み始めると、実際の攻撃が起きる前から動く。今回のバーレーン米軍基地攻撃は、まさにその「万が一」が現実になったことを示している。
この先どうなる
停戦の骨格が崩壊しつつあるとすれば、次の分岐点は米国が「報復の応酬を断ち切るための外交」に動くか、それとも軍事的優位を維持するためさらに攻撃を拡大するかだろう。トランプ政権の過去の行動パターンを見ると、「強さを見せてから交渉」という流れを好む傾向があった。ただ、バーレーン米軍基地攻撃という直接的な被害が出た今、世論と議会が強硬論を後押しするリスクも高まっている。
イラン側も内部で強硬派と現実派が綱引きしているとみられており、どちらが主導権を握るかで展開は大きく変わる。ホルムズ海峡リスクが現実化するかどうか、今後48〜72時間の動きが最初の試金石になりそうだ。