中国原油備蓄の取り崩しが始まった——しかも、使ったのは国家戦略備蓄ではなく、民間・商業タンクの在庫だったらしい。Bloombergが2026年6月10日に報じたこの動きは、湾岸からの供給ショックがいかに急で、深かったかを物語っている。
日量1100万バレルの国が「数週間分」しか持てない理由
中国の原油輸入量は日量約1100万バレルを超える。その相当部分が中東・湾岸ルート経由で、ホルムズ海峡を通過してくる。今回の湾岸緊張で調達が滞り始めたとき、当局がまず手をつけたのが商業備蓄だった。
なぜ戦略備蓄ではないのか。戦略備蓄は「最後の切り札」として手元に残しておきたい——という判断があるとすれば、裏を返すと商業タンクがどれだけ底をつきやすいかがわかる。単純計算では、商業備蓄だけでカバーできるのは数週間程度とされている。湾岸ショックの長期化は、そのまま在庫枯渇シナリオに直結する。
「中国は湾岸からの供給ショックを相殺するために、商業原油備蓄の取り崩しを開始した。」(Bloomberg、2026年6月10日)
ホルムズ海峡リスクは以前から「想定されるリスク」として語られてきた。それが今回、数字として目に見える形になった格好だ。
備蓄放出が「相場急騰の引き金」になるまでのシナリオ
市場への影響は、単純ではない。短期的には、商業備蓄の放出によってスポット市場での購入圧力が一時的に下がる。原油需要が「一時休止」するわけで、相場には下押し方向に働く。
ただし、これが長続きするかは別の話だ。在庫水準が低下したと公表された瞬間、市場は「次に中国が買いに来る」を織り込み始める。在庫低下の発表→スポット買い観測→相場急騰、というシナリオは十分にあり得る。備蓄放出は応急処置であって、湾岸供給ショックそのものを解消するわけではないからだ。
さらに視野を広げると、中国以外のアジア主要国も同じルートに依存している。パキスタンの停電懸念、マラッカ海峡での物流不安——アジア全体でエネルギー供給の綱渡りが始まっているとすれば、今回の中国の動きはその象徴的な一幕にすぎないかもしれない。
この先どうなる
焦点は二つ。一つは湾岸の緊張がいつ、どう収束するか。もう一つは、中国が商業備蓄の枯渇前に戦略備蓄の投入に踏み切るかどうかだ。後者に踏み切れば「本当に深刻な事態」とのシグナルになり、原油相場は跳ね上がる可能性がある。逆に湾岸情勢が早期に落ち着けば、今回の取り崩しは「騒ぎすぎ」で終わる。どちらに転ぶかは、今後数日から数週間の動向次第。スポット市場と中国側の公式発表を、引き続きウォッチしておく必要がありそうだ。