ECB利下げへの道が、ついて中央銀行のトップ自身の口から開かれた。ラガルド総裁が「6月の理事会で利下げを実施する準備がある」と明言したのは、2022年から足かけ3年近く続いた歴史的な利上げサイクルに、終止符が打たれる瞬間だったといえる。驚いたのはそのタイミングより、むしろ踏み込みの鮮明さだった。
ラガルド発言の裏にある「2つの数字」
ECBが利上げに踏み切った2022年7月当時、ユーロ圏のインフレ率は8%を超えていた。それが今や目標値2%に接近しつつある。同時に、ドイツのGDP成長率はマイナス圏を行き来し、製造業の受注は低迷が続く。インフレとの戦いが「勝利宣言」に近づく一方、景気の失速リスクが現実化してきた。この2つの数字が、ECBを動かした、と見るのが自然だろう。
「ECB総裁クリスティーヌ・ラガルドは、中央銀行が6月に利下げを実施する準備が整っていると述べた」(The Wall Street Journal)
注目したいのは、発言のトーンだ。「データ次第で検討する」といった従来の慎重な表現ではなく、「準備が整っている」という形で踏み込んでいる。市場は即座に反応し、ユーロは対ドルで軟調に推移。ECBが意図的にメッセージを発した可能性は高い。
FRBと「逆回転」、円も無傷ではない
問題はここからで、大西洋の反対側のFRBは依然として高金利の長期化路線を崩していない。米国の根強いインフレと雇用の強さが、利下げを遠ざけているからだ。ECBが先に動けば、ユーロ売り・ドル買いが加速するシナリオは教科書通りに起きやすい。そしてドル高が強まれば、円を含む新興国通貨への圧力も連動して強まる。「欧州の話」では済まないわけで、日本の輸入物価や国内の金利政策にも無関係とはいいにくい状況だ。ユーロ圏金融政策の転換は、静かながら確実に世界の資金フローを塗り替えていく可能性がある。
この先どうなる
6月のECB理事会が事実上の「利下げ開始宣言」になるかどうかは、5月末までのインフレデータと、ドイツを中心とした景気指標が焦点になりそうだ。仮に6月の利下げが実現すれば、その後の「利下げペース」を巡る議論がすぐに始まるはずで、年内に2回か3回かという市場の読み合いが活発化する可能性が高い。一方でFRBの動向次第でユーロ安が想定以上に進んだ場合、ECBが利下げを途中で止めるという逆説的な展開もあり得る。ラガルドが開けた扉の先が、緩やかな着陸になるか、乱気流になるか——6月まであと少し、注視しておいて損はない。