エルニーニョが太平洋で発生した——Bloombergが報じたその瞬間、コーヒーと砂糖の先物市場はすでに動き始めていたらしい。「暑い夏が来る」という話で済まないのは、前回2023年の数字を見ればはっきりする。あのとき世界食料価格指数は最大15%跳ね上がり、低所得国の食料輸入コストを一気に押し上げた。今回はその再現どころか、悪条件が重なっている。

インドネシア・インド・東アフリカ、干ばつリスクが集中する3つの火種

エルニーニョが農業に与える打撃は均等じゃない。リスクが特に集中しているのがインドネシア、インド、そして東アフリカの三地域だ。インドネシアはパーム油と米の主要産地、インドはコメ・小麦の輸出規制を繰り返してきた不安定な供給国、東アフリカはすでに慢性的な食料安全保障の綱渡りが続いている地域——この三つが同時に干ばつに見舞われたとき、何が起きるかは2023年のデータが示している。

コーヒーや砂糖といったソフトコモディティも反応を示しているとの報道もあった。穀物不作リスクが広がれば代替作物への需要がシフトし、それが価格を押し上げる。連鎖の入り口にいる、というのが今の状況に見える。

「エルニーニョが太平洋で発生し、アジア・アフリカ・南北アメリカの一部で気温上昇と作物不作のリスクが高まっている」(Bloomberg、2026年6月10日)

前回との決定的な違いは、世界経済の体力だ。2023年当時も食料インフレは問題だったが、各国中央銀行には利下げという選択肢が一応残っていた。今回はインフレ圧力がくすぶったまま、その選択肢が狭まった状態で食料インフレの第二波が来ようとしている。

食料価格高騰が「利下げできない中央銀行」を直撃する理由

食料品価格が上がると消費者物価指数(CPI)の押し上げ要因になる。中央銀行が政策金利を下げたくても、インフレが再燃すれば動けない。家計は高い食料品を買いながら、高い金利も背負い続けるという二重苦が生まれる構図だ。低所得層ほど食費の家計占有率が高く、打撃は不均等に集中する。

農産物の先物市場が先に動いているのは、そういうシナリオをトレーダーがすでに織り込み始めているから、という見方もできる。市場は「もし穀物不作リスクが顕在化したら」を今から価格に埋め込もうとしている段階らしい。

この先どうなる

エルニーニョの強度が今後数ヶ月でどこまで上がるかが最初の分岐点になりそうだ。気象当局が「スーパーエルニーニョ」水準に達すると判定すれば、農産物市場の反応はさらに鋭くなる。主要穀物の作付け期とエルニーニョのピーク時期が重なるかどうかも、収穫量への影響を左右する。インドが再び輸出規制に動けば、アジア市場のコメ価格は連鎖して動く。食料価格高騰が現実になるまでのタイムラグはおよそ半年。夏の終わりには、今の先物市場の動きが「正しかったかどうか」がわかってくる。