中東和平交渉が前進するたびに、原油市場は同じ反射をくり返してきた。売り圧力が止まり、リスクプレミアムが剥がれ、価格は横ばいへ。6月5日付のブルームバーグが伝えたのも、その見慣れたパターンだった。今週初めて下落した原油価格が、和平への楽観論を手掛かりにいったん下げ止まったという。

クウェート攻撃が示す「楽観論のすき間」

ただ、調べていくと引っかかる点が一つある。和平期待が相場を支えるその同じ週に、クウェートへの攻撃という新たな供給リスクが浮上していたことだ。

クウェートはOPEC加盟国のなかでも比較的安定した産油国とみられてきた。そこへの攻撃が報じられたタイミングで、なぜ原油は上がらなかったのか。答えは単純で、市場参加者が和平ニュースをより大きく評価したからだが、それはつまり「悪材料を一時的に棚上げした」ということでもある。棚に上げたものはいずれ落ちてくる。

ホルムズ海峡を巡る混乱も、解消されたわけではない。世界の原油輸送量の約2割が通過するこの水路で緊張が高まれば、クウェート攻撃のニュースなど比較にならない規模の供給不安が広がる。エネルギー市場が今抱えているのは、複数のリスクが同時進行している状態だ。

「中東和平交渉への楽観論が地域の供給リスクへの懸念を相殺し、今週初の下落後、原油価格は横ばいとなった。」(Bloomberg、2026年6月5日)

「相殺」という言葉が示す通り、価格が動かなかったのは安定ではなく綱引きの結果にすぎない。引き分けの相撲は次の一番を解決しない。

過去の停戦合意が崩れた翌日を覚えているか

中東で和平交渉が進むたびに原油が下落し、交渉が破綻するたびに急騰する、というサイクルは今に始まった話じゃない。投資家がリスクプレミアムを剥ぎ取るスピードと、現地の火種が再燃するスピードは、歴史的に見てほぼ同等か、後者のほうが速いことが多かった。

グローバルサプライチェーンにとって、原油価格の一時的な安定が「安堵の一報」ではなく「次の急変への助走期間」と受け取られる理由はここにある。製造業の調達担当者やタンカーの用船契約を結ぶ商社が、今この価格帯でヘッジを積み増しているとしても驚かない。

この先どうなる

中東和平交渉が具体的な停戦枠組みに進展するかどうかが、当面の最大の変数になる。交渉が進めば原油のリスクプレミアムはさらに縮小し、WTI・ブレントともに下値を試す展開が想定される。一方で、クウェートへの攻撃が散発的なものにとどまらず、ホルムズ海峡での新たな摩擦と連動するようなら、価格は一気に逆回転しかねない。

市場が今「平和を買っている」のは確かだが、その賞味期限がどれだけ持つか。それを決めるのは交渉テーブルではなく、現地の砂漠の上で起きていることのほうらしい。