米国原油在庫が、2004年以来21年ぶりの底を打った。フィナンシャル・タイムズが報じたこの数字、夏の需要期を前に出てきたタイミングがまずい。過去20年で、これほど在庫が薄い状態でドライブシーズンに突入した例はないらしい。
ホルムズ海峡20%の綱渡り、精製所はもう動いた
世界の原油輸送量のおよそ20%が通過するホルムズ海峡。トランプ政権によるイランへの軍事作戦が続く中、この航路の先行きが読めない状態が続いている。タンカーの保険料は静かに上がっていて、調達コストが積み上がった分、米国内の精製所はすでに稼働率を絞り始めた。需要が増える前に供給側が手を引いた格好で、この順番が悪い。
エネルギーアナリストの間では、ガソリン価格が「数週間以内に急騰する」という見方が出ている。精製マージンが圧縮された状態で需要期を迎えれば、価格転嫁は避けられないという計算だ。米家計が夏休みの旅行計画を立てるより先に、ガソリンスタンドの数字が変わるかもしれない。
「ドナルド・トランプのイラン戦争により、米国の石油在庫が2004年以来最低水準に落ち込んだ」――Financial Times
この一文の刺さり方は普通じゃない。「エネルギー独立」を旗印に掲げてきたトランプ政権が、自ら起こした軍事行動で備蓄を削っている構図になっているからだ。シェール革命で積み上げた地政学的優位を、中東での戦争コストが食いつぶしている。
「エネルギー独立」が、自国の戦争で削られていく皮肉
トランプ政権がずっと訴えてきたのは、中東依存からの脱却だった。国内増産を進め、産油国に左右されない経済をつくる——そのはずだった。ところが今、ホルムズ海峡の不安定化リスクを自ら高めながら、戦略備蓄を消耗させている。エネルギー安全保障の観点から見れば、政策の前提が内側から崩れている状況といえる。
調べていて引っかかったのは、在庫減少の速度だ。季節要因だけでは説明がつかないペースで減っているとされていて、軍事作戦に伴う燃料消費が上乗せされているとみられている。数字はまだ公式に詳細が出ていないが、FTが報じた水準はそれ自体がシグナルとして機能し始めた。
この先どうなる
最大の分岐点は、イランをめぐる情勢が今後数週間でどう動くかだろう。軍事作戦が長期化すれば備蓄の消耗は続き、ホルムズ海峡のリスクプレミアムも上乗せされたまま。逆に何らかの停戦や協議が動けば、市場の緊張は一気に和らぐ可能性もある。ガソリン価格の行方は、ワシントンとテヘランの間で決まる局面に入った。夏のアメリカのドライブシーズンが、今年は少し違う色になるかもしれない。