NATO即応部隊NRFから最大1万3000人が消える——フィナンシャル・タイムズがそう報じたとき、欧州の安全保障担当者たちが青ざめたとしても不思議ではない。現在4万人規模を誇るNRFは、ロシアの侵攻シナリオで「72時間以内に展開できる」ことを売りにしてきた部隊だ。その3分の1が米国の撤退によって消えるとなれば、計算が根底から狂う。

「72時間以内」の盾に3分の1の穴が開く

NRFはNATOが2002年に創設した多国籍即応部隊で、平時は各国が部隊を持ち回りで担当しつつ、有事には迅速に集結する仕組みになっている。ウクライナ侵攻後はその重要性が増し、特にバルト三国とポーランドは「最前線の盾」としてNRFの展開能力に依存してきた経緯がある。

米国が提供してきた兵員と装備はその中核をなしており、今回報じられた削減規模は単なる「数の問題」にとどまらない。指揮系統、輸送能力、情報共有のハブ機能——そういった「見えないインフラ」も一緒に縮小されるとみられている。

「事情に詳しい複数の関係者によると、米国はNATOの即応部隊NRFへの貢献を削減する計画であり、最大で4万人規模の部隊が3分の1縮小される可能性があるという。」(フィナンシャル・タイムズ)

ここで引っかかるのが「複数の関係者」という情報源の出し方だ。米政府は公式に否定も肯定もしていない。つまり今は「観測気球」の段階で、欧州各国の反応を見ながら条件交渉を進めている可能性が高い。

GDP比5%要求との連動——圧力か、本気の再編か

トランプ政権が欧州各国にNATO防衛費のGDP比5%負担を求めているのは周知の通りだが、現時点でその水準に達している国はほぼ存在しない。NRF削減の報道が出たタイミングは、この交渉が佳境に入りつつある時期と重なっている。

見方は二つに割れている。一つは「欧州に本気で自立を迫る最後通牒」、もう一つは「防衛費引き上げを引き出すための揺さぶり」。どちらにせよ、米欧防衛分担の再編が不可逆な方向に向かっているのは間違いなさそうだ。欧州委員会が独自の防衛予算枠組みを急ピッチで整備しているのも、偶然ではないだろう。

ドイツは2024年にNATO基準の2%をようやく達成したばかりで、5%は遠い。ポーランドはすでに4%超を目指す姿勢を示しているが、それは「脅威の近さ」に比例した判断であり、西欧諸国との温度差は依然として大きい。

この先どうなる

最も注目すべきは6月のNATO国防相会合と、その後に控えるサミットの行方だ。削減が正式に議題に上れば、同盟内の亀裂が数字として可視化される局面が来る。欧州各国が独自の即応体制を急造しようとしても、米国の装備・訓練・後方支援なしには数年単位の時間がかかる。その「空白期間」こそが最大のリスクで、ロシアが読み込んでいるシナリオがあるとすれば、まさにそこではないか。トランプNATO政策の行き着く先が圧力による同盟強化なのか、静かな解体なのか——その答えは、思ったより早く出るかもしれない。