トランプ関税が、また新しい顔を見せた。今度の標的は「敵国」ではなく、カナダ・EU・台湾・英国といった米国の同盟国だ。2026年6月4日、ブルームバーグが報じた新提案によれば、強制労働による輸入を自国で禁止している貿易相手国に対して、最低10%の関税を課すという。禁止しているのに課税される——この逆説が、今回の話でいちばん引っかかるところだった。

「強制労働を禁じている国」に10%が課される理由

トランプ政権が持ち出した根拠は「強制労働慣行の是正」だ。表向きは人権政策に聞こえるが、実際の設計は少し違う。強制労働輸入を禁止している国は「最低税率10%」に収まり、そうでない国にはより高い関税が課される仕組みらしい。つまり10%は罰則ではなく、むしろ「優遇された最低ライン」という位置づけになっている。

法律事務所キング&スポルディングの国際貿易チームパートナー、ライアン・マジェルス氏が注目するのはSection 301調査の行方と、すでに支払われた関税の還付問題だ。還付がどの範囲まで認められるかで、企業側のコスト計算がまるごと変わってくる。交渉の席では、この2点が最初にぶつかり合う論点になりそうだと同氏は見ている。

「10%の税率は、カナダ、メキシコ、EU、台湾、英国など、強制労働による輸入品を禁止している相手国に適用される」(Bloomberg, 2026年6月4日)

メキシコがリストに入っているのも見逃せない。USMCAの枠組みが機能しているはずの相手国が同じ10%ラインに並んでいる。協定があっても免除されない——そういう設計を選んだということは、条約より大統領令を優先する姿勢の表れとも読める。

WTOを迂回する「人権関税」の先例になるか

今回の枠組みで気になるのが、WTOのルールとの関係だ。WTOは原則として最恵国待遇を定めており、特定国への差別的関税は紛争対象になりうる。ただし「強制労働」という人権上の根拠を前面に出すことで、安全保障例外(GATT第21条)や道徳例外(第20条)に近い論理で正当化しようとしている節がある。

強制労働 貿易という切り口を関税の根拠にするのは、実は米国だけではない。EUも強制労働規制(CFLR)を2024年から動かしており、人権を貿易政策に組み込む流れ自体は国際的に広がっている。ただ今回のトランプ提案は、同盟国を含む広範な相手に一律で適用する点が、これまでとは質的に異なる。「人権」が外交カードとして機能し始めたとき、WTO体制の外側で新しい貿易秩序が静かに組み上がっていく——そのプロセスが今まさに動いているかもしれない。

この先どうなる

焦点は3つに絞られそうだ。①Section 301調査がどの品目・どの国を対象にするか、②既払い関税の還付範囲が企業側にどう適用されるか、③EU・台湾・カナダが対抗措置に踏み切るかどうか。特にEUはすでに報復関税リストを持っており、10%が「交渉の入口」なのか「固定された床」なのかによって対応が分かれる。トランプ政権の発表から各国が動き出すまでのタイムラグが、次の読みどころだろう。