光ファイバードローンがイスラエルの防空システムを突き破っている——それがニューヨーク・タイムズの報道で浮かび上がった絵だった。電波ではなく物理的なケーブルで操縦するこの機体は、イスラエル軍が長年磨いてきた電子戦の土俵に乗ってこない。ジャミングしようにも、妨害すべき電磁波がそもそも存在しないのだから。
ヒズボラが持ち込んだ「電波ゼロ」の操縦方式
従来の対無人機システムは、機体と操縦者の間にある無線通信を潰すことで機能してきた。GPS妨害、通信遮断、電波ジャック——イスラエル軍が中東で積み上げてきた電子戦の蓄積はそこに集中していた。
ところが光ファイバー制御の機体は、ケーブルを引きながら飛ぶ。通信は光信号として有線で伝わり、外部からの電磁干渉が効かない。飛行中にジャマーをかけても、ケーブルの向こうにいる操縦者には何も届かないわけだ。
ヒズボラが対無人機の分野でここまで踏み込んできたのは、ある意味で予測できたことかもしれない。だが実際に防空網に穴が開いた段階で、イスラエル軍は「急ごしらえの対策」を強いられていると同紙は伝えている。
「レバノンの武装組織による攻撃がイスラエル側の虚を突き、政治・軍事指導者たちは急きょ対策に追われている」(ニューヨーク・タイムズ)
政治・軍事の両レベルで後手を踏んでいる、という表現がじわりと重い。技術的な問題ではなく、意思決定の速度そのものが問われているってことだろう。
ウクライナで実証済み、中東で量産される非対称の一手
光ファイバードローンはウクライナの前線ですでに実戦投入が確認されている。ロシア・ウクライナ双方が活用しており、電子戦が飽和した環境での突破口として定着しつつあった技術だ。
それが中東に移植された。電子戦 無効化という効果がウクライナで証明されている以上、ヒズボラがこの技術に目をつけるのは自然な流れだったとも言える。費用対効果も高い。精密誘導ミサイルと比べればコストは桁違いに安く、量産しやすい。
イスラエル軍の対無人機システムとしては「ドローン・ドーム」などが知られているが、こうしたシステムもレーダー捕捉と電波妨害を組み合わせた設計が基本だ。光ファイバー制御の機体には、探知はできても無力化の手段が限られるという弱点が露呈した格好になっている。
この先どうなる
イスラエル軍が迫られる対応は大きく二方向に分かれそうだ。一つは物理的な迎撃能力の強化——レーザー兵器や近接防空の拡充。もう一つはケーブルそのものを切断・妨害する技術の開発だ。ドローンを引くファイバーを物理的に断ち切る手法はウクライナ戦線でも研究されており、空中でのケーブル検知・切断システムがすでに試験段階にあると報じられている。
ただ、いたちごっこになる公算が高い。光ファイバードローンの技術は今後さらに小型化・低コスト化が進むとみられ、ヒズボラに限らず非国家武装組織が広く採用する可能性がある。中東での戦場技術のサイクルは、もはやウクライナと連動して回っている——そう見ておいた方がよさそうだ。