ヒズボラ停戦拒絶——その言葉が出るまで、48時間もかからなかった。米国・イスラエル・レバノンの3者が共同声明を出した翌日、ヒズボラ指導者ナイム・カサムは「この交渉は無益であり、レバノンにとって屈辱的だった」と言い切った。レバノン南部への「パイロット安全地帯」設置と、ヒズボラ戦闘員の撤退を義務付ける条件——それを指して「イスラエルの目標をそのまま実現させるものだ」と拒否を宣言したのだ。

ナイム・カサムが「降伏」と断じた理由

今回の合意でとりわけ目を引くのは、ヒズボラが交渉テーブルに一度も座っていなかったという点だ。米国務省が水曜日に発表した共同声明には、停戦は「ヒズボラによる完全な停戦を条件とする」と明記されていた。つまり合意の履行義務を負わされた当事者が、その合意を結ぶ場にいなかったことになる。

「ヒズボラが南部戦線からの撤退と停戦を受け入れることは降伏に等しく、イスラエルの目標を達成させるものだ」——ナイム・カサム(BBC報道より)

ヒズボラを当初から除外した枠組みが機能するのか、という疑問は専門家の間でも根強かったらしい。イランが後ろ盾として存在する以上、テヘランの意向を無視した地域合意は紙の上だけで終わりやすい——その読みが、今回また現実になった格好だ。

ベイルート南部の住民が見抜いていたこと

ヒズボラの拠点が集中するベイルート南部、通称「ダーヒエ」の路上でも、合意への懐疑はあっさり漏れ出ていた。25年間その地で店を営むサミという男性は、BBCの取材にこう話した。

「片側だけの停戦なんて停戦じゃない。全員が止まるか、誰も止まらないかだ」

声明が出た木曜日にも、レバノン国内では空爆があったという。それが「停戦」を名乗る合意と同時進行していたとすれば、市民の言葉の方が事態を正確に言い当てていたんじゃないか、という気がしてくる。ナイム・カサムの強硬な拒絶と、一般市民の冷静な観察が、珍しく同じ地点を指していた。

この先どうなる

焦点は二つに絞られてくる。一つは、イランが今後の停戦交渉にどう関与するか。ヒズボラを外した枠組みが機能しなかった以上、次の交渉にはイランの存在をどう位置づけるかが避けられない論点になる。もう一つは、イランの核交渉への連鎖だ。レバノン情勢が膠着すれば、米国がイランに対して持てる外交カードの重さが変わってくる可能性がある。レバノン南部の安全地帯構想が宙に浮いたまま、次の枠組みが動き出すまでの時間——その空白が最も危ういかもしれない。