強制労働関税という名の「全方位制裁」が、静かに動き始めている。2026年6月3日、Bloombergが報じた内容によると、米国は強制労働の疑いを根拠にした調査を経て、主要貿易相手国のほぼすべてからの輸入品に対し、少なくとも10%の関税を課すことを提案した。ターゲットは中国だけじゃない——欧州、東南アジア、ラテンアメリカを含むグローバルサプライチェーン全体が射程に入っている。
ポンペオが「戦略的に正当」と言い切った意味
元国務長官マイク・ポンペオは、この措置を「戦略的に正当だ」として支持する立場を明確にした。ポンペオといえば、対中強硬路線を象徴する人物。その彼が今回の関税提案を後押しするということは、単なる人権問題の延長線上ではなく、通商政策の武器化という文脈で読んだほうがしっくりくる。
市場の反応はすでに始まっていた。輸入依存度の高いセクターを中心に動揺が広がり、サプライチェーン再編を迫られる企業のコスト計算は一気に狂い始めた格好だ。「強制労働の疑い」というワーディングが曲者で、証明責任の所在が曖昧なまま関税が発動されれば、輸出国側の反論は事実上封じられてしまう。
「米国は強制労働の疑いに関する調査を受け、主要貿易相手国のほぼすべてからの輸入品に対し、少なくとも10%の関税を課すことを提案している」(Bloomberg、2026年6月3日)
ここで引っかかったのは、「疑い」という言葉の軽さだ。従来の通商摩擦では、関税発動には明確な貿易収支データや不公正競争の証拠が求められてきた。それが「疑い調査」レベルで10%超の措置が動くなら、ほぼどの国も対象にできる論理になってしまう。
WTO体制の「抜け穴」に人権の旗を立てた
専門家が警戒しているのは、この措置が前例として固定化するシナリオだ。WTOは加盟国間の関税引き上げに厳格なルールを設けているが、国家安全保障や人権保護を名目にした措置には例外規定がある。米国はここ数年、その例外を積極活用してきた流れがある。
強制労働を根拠にした関税は、既存の「ウイグル強制労働防止法」でも使われてきた手法。ただ今回は対象が中国一国にとどまらず、主要貿易国ほぼ全域に広がっている点がこれまでとは違う。欧州諸国やASEAN各国が同じ俎上に乗るなら、それはもはや対中政策ではなく、米国主導の貿易秩序の書き換えと見るべきだろう。各国の反発は必至で、報復関税の連鎖が起きれば1930年代のスムート・ホーリー法に重なるリスクも指摘され始めている。
この先どうなる
短期的には、輸入依存型の製造業やリテールセクターへのコスト転嫁が焦点になる。対象国との外交交渉が本格化すれば、「強制労働認定」の基準交渉が次の火種になるとみられる。WTOへの提訴は複数国から起きそうだが、米国側は安全保障・人権例外を盾に長期戦を辞さない構えと読むのが自然だ。日本にとっても、ASEANサプライチェーンへの依存度が高い産業では影響が出てくるかもしれない。ポンペオ米国通商政策の方向性が固まりつつある今、「強制労働」という言葉がどこまで拡張解釈されるか——そこをしばらく追いかける必要がある。