円安が160円台に迫る局面で、ふと思い出すのが2024年の「9.8兆円」という数字だ。当時、日本政府は過去最大規模の為替介入を断行した。それでも円安圧力は消えなかった。Bloombergが報じたように、いま同じラインが再び攻防の舞台になろうとしている。

9.8兆円でも崩せなかった壁、2025年に再浮上

ドル円が159円台後半まで下落(円安方向)したと伝えられたのは6月初旬のこと。2024年の大規模介入時の水準とほぼ重なる160円前後は、市場参加者にとっても「記憶に刻まれたライン」らしい。

背景を整理すると、米CPIの再加速でFRBの利下げシナリオが遠のいたのが大きい。米国の高金利が続く一方、日銀は追加利上げに慎重な姿勢を保ったまま。この日米金利差が円を売る理由として機能し続けている。

「アジア株は小幅上昇し、円は1ドル160円に接近した」――Bloomberg Markets Wrap, June 2, 2026

市場関係者が注目しているのは、介入の「効果の賞味期限」だ。2024年の例を振り返れば、巨額の円買い介入でいったん円高方向に振れても、日米金利差というファンダメンタルズが変わらない限り、じわじわと元の水準へ戻っていった。同じ構図が繰り返されている格好だ。

家計への打撃、そして国債市場への静かな圧力

160円を明確に超えてくると、影響は為替市場だけにとどまらない。輸入物価の上昇が食品・エネルギー価格を押し上げ、実質賃金の回復にブレーキをかける可能性がある。円安ダメージは企業の輸出メリットより先に、家計のダメージとして体感されやすい局面になってきた。

さらに気になったのが、日本国債市場への連鎖リスクだ。円安が深刻化すれば、海外投資家が日本資産から資金を引き揚げる動きにつながりかねない。その場合、国債利回りへの上昇圧力が強まり、日銀がコントロールしてきた金利環境が揺らぐシナリオも排除できない。

財務省は口先介入のトーンを強めているものの、実弾投入の判断はまだ見えていない。日銀の次回会合での発言や、米国経済指標の動向次第で、市場のムードは一気に変わる可能性があって、そこは注意したいところだ。

この先どうなる

焦点は二つ。ひとつは日銀が早期利上げに動くかどうか。7月の会合に向けた地ならしとも取れる発言が出るかどうかが、最初のシグナルになる。もうひとつはFRBの利下げ転換のタイミング。米インフレが想定より粘着質であれば、高金利が長引き、円安圧力は続く。財務省と日銀が「次の一手」を打てる時間は確実に縮まっている。160円突破が現実になった場合、2024年のような介入が再び選択肢に上ってくるのは確かだが、同じ手を同じ場面で使う効果がどれだけあるか——市場はすでにそこを織り込み始めているかもしれない。