UNIFIL撤収が始まった瞬間、46年間にわたって南レバノンに存在し続けた「歯止め」が消えようとしている。国連のアントニオ・グテーレス事務総長が安全保障理事会への報告書でイスラエル・ヒズボラ紛争の収束に向けた複数の選択肢を提示したとAPが報じた。ただ、その詳細は非公開。外から見えるのは「何かを動かそうとしている」という気配だけで、肝心の中身は霧の中だった。
1万人が46年間守ってきた「南レバノンの緩衝ライン」
UNIFILが設立されたのは1978年。イスラエル軍がレバノン南部に侵攻したその年に、緊急措置として生まれた部隊だった。以来ほぼ半世紀、約1万人の要員がイスラエルとレバノンの間に物理的に立ちはだかり、全面衝突を抑止する「人間の緩衝材」として機能してきた。
それが今、段階的に消えていく。撤収の直接的な引き金は複数あるが、昨年のイスラエル軍とヒズボラの激しい交戦でUNIFIL要員が危険にさらされたことが大きかったとみられる。要員を守れない場所で活動を続けることへの限界論が、国連内部でも強まっていたらしい。
「国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、国連平和維持部隊がレバノンから撤収し始めたことを受け、イスラエルとヒズボラの紛争終結を支援するための選択肢を安全保障理事会への報告書で提示した」(AP通信)
グテーレス停戦案の柱とみられるのは、停戦監視体制の再構築とレバノン軍の南部展開加速の2点。つまり「国連軍の穴をレバノン正規軍で埋める」という発想だ。ただ、レバノン軍は慢性的な資金不足と装備の老朽化を抱えており、ヒズボラと正面から向き合える戦力があるかどうか、懐疑的な見方は根強い。
ヒズボラが武装を手放さない限り、緩衝地帯は名ばかりになる
調べて引っかかったのは、この問題の非対称さだ。国連軍の撤収はスケジュール通り進む。レバノン軍の展開計画も紙の上では存在する。しかしヒズボラの武装解除については、具体的な期限もメカニズムも見当たらない。
南レバノン緩衝地帯としての機能を維持するためには、この三つが同時に動かなければならないはずだった。でも実際には、一つだけが確実に動いている。監視の目が減れば、ヒズボラにとって動きやすい環境が生まれる——そう読む専門家は少なくない。
イスラエル側も当然それを知っている。UNIFIL撤収後の南レバノンで何かが起きれば、イスラエルが単独で対応しようとする可能性は十分にある。グテーレス案が機能するかどうかは、レバノン軍の展開速度とヒズボラの動向、そしてイスラエルがどこまで待てるか、この三変数に完全に依存している。
この先どうなる
当面の焦点は、グテーレスが安保理に提示した選択肢の詳細が表に出てくるかどうかだろう。非公開とされている以上、常任理事国間の交渉が先行しているとみていい。米国がどこまで関与を深めるか、そしてイランがヒズボラへの影響力をどう使うかが、停戦監視体制の実効性を左右する。
レバノン軍の南部展開は数週間から数カ月単位で進むとみられるが、その間に空白期間が生じる。この「隙間」の長さと深さが、次の火種になるかどうかを決める。グテーレス案が絵に描いた餅で終わるのか、歯止めとして機能するのか——答えはおそらく、南レバノンの地面の上で出る。