OECD世界経済見通しが、かつてなく暗い数字を並べてきた。紛争が6ヶ月を超えた場合、主要国の成長率が軒並み0.5〜1.2ポイント下押しされる——そのシナリオが、今や「最悪の想定」ではなく「あり得る現実」として扱われている。震源地はイランとホルムズ海峡。世界の原油輸送量の約20%が通過するこの水路が封鎖状態を続けるかぎり、エネルギー価格の高止まりは製造業・物流・消費の三層を同時に締め上げていく。
ホルムズ封鎖が引き起こす「3段階の連鎖」
まず製造業が直撃を受ける。原油高は素材・輸送コストを押し上げ、薄利で動いているサプライチェーンは即座に赤字転落の瀬戸際に立たされる。次に物流が詰まる。タンカー保険料の急騰は、すでに迂回ルートへのシフトを強いており、リードタイムが伸びた分だけ在庫コストが積み上がる。最後に消費が冷える——というのが教科書的な流れだが、今回は金融市場の「原油高と株高の同時進行」という異常な状態が加わっている。
「Global Economy Risks Slump on Prolonged Iran Conflict, OECD Says」(Bloomberg、2026年6月3日)
Bloombergが伝えたように、この臨界状態で次の一手を誤れば信用収縮が現実となる、という見立てはもはや市場関係者の間で共有された前提に近い。株価が下がらないのは「まだ誰も損切りしていない」からで、そのトリガーが引かれた瞬間に連鎖が始まるのかもしれない、という緊張感が漂っている。
欧州は「代替調達の限界」、アジアは「通貨安とインフレの二重苦」
地域別の状況を見ると、ダメージの種類がまるで違う。欧州はロシア制裁下での代替調達余力がすでに限界域に近い。中東からの供給が細れば、北海油田の増産や米国LNG輸入で補うしかないが、それぞれ価格交渉と設備制約が立ちはだかる。エネルギー価格上昇が再びインフレを押し上げれば、ECBは利下げどころか利上げ再開を迫られるシナリオも否定できない状況だ。
一方アジア新興国は、ホルムズ海峡封鎖リスクによる原油高に加えて、ドル高による通貨安が同時に進行している。輸入物価が上がりながら自国通貨が下がる——これが「二重圧力」の正体で、中央銀行が利上げで通貨を守ろうとすれば内需が冷え、放置すればインフレが加速する。どちらに転んでも痛い構図に置かれている。イラン紛争エネルギー価格の高止まりがアジアに与えるダメージは、欧州とは異なる形で深刻かもしれない。
この先どうなる
OECDが「6ヶ月」という期限を区切ったのは意味がある。それ以内に外交的解決か、少なくとも海峡通航の再開が実現すれば、成長率の下押しは限定的に収まる余地がある。逆に長引けば、各国中銀の政策余地が狭まるなかで信用収縮が始まり、2008年型ではなくより泥沼な形の世界同時減速が起きるリスクが高まる。市場が注目する次の焦点は、原油先物の動向と、米国がホルムズ海峡への関与をどこまで深めるかの2点になりそう。正直、どちらも予測が難しい局面に来ている。