EU雇用危機が、静かに100万人という数字を超えようとしている。引き金は一つじゃなかった。イラン戦争の余波でエネルギー価格が跳ね上がり、そこへトランプ関税が重なった。二つのショックが同時に欧州製造業を直撃している格好だ。
自動車・鉄鋼・化学、三産業が「危険水域」
ブルームバーグが2026年6月3日に報じた内容によれば、EUが失うリスクのある雇用数は100万人を超える。被害の震源地として名指しされているのがドイツ、フランス、イタリアの3カ国。特に打撃が大きいのが自動車・鉄鋼・化学の三大産業だ。
エネルギーコストが製造コストに直結するこれらの業種は、ロシアのガス供給が途絶えた後遺症をまだ引きずっている。そこへイラン情勢が中東産原油の供給不安を煽り、価格に再び上昇圧力がかかってきた。ドイツの化学大手が国外移転を検討しているという話も、業界では珍しくなくなりつつある。
「イラン戦争の余波と貿易摩擦を含むグローバルな圧力により、EUは100万人超の雇用を失うリスクに直面している」(Bloomberg、2026年6月3日)
欧州産業空洞化という言葉が使われるようになってから久しいが、今回の複合ショックはその速度を一気に上げる可能性がある。中間層の雇用を支えてきた製造業の拠点が、保護主義とエネルギー高の波に侵食されているのは数字が物語っている。
欧州委員会が動けない、3つの理由
EU雇用危機への対応が後手に回っているのには、構造的な理由があるらしい。一つ目は財政ルール。コロナ禍以降に緩和されたEUの財政規律は再び引き締め方向に向かっており、各国が大規模な産業補助金を打てる環境じゃない。
二つ目は加盟国間の温度差。エネルギー調達構造が国ごとに違うため、支援策の設計で利害が衝突しやすい。ドイツが望む電力価格補助をポーランドやバルト諸国が同じ熱量で支持するかというと、そう単純でもない。
三つ目はタイミングの問題。欧州委員会が緊急の産業支援策を模索しているとされるが、政策立案から実施まで通常でも数カ月かかる。その間にも工場閉鎖の判断は企業ごとに進んでいく。イラン戦争経済影響がリアルタイムで積み上がっている中で、EU側の対応にはどうしても時間差が生じる。
この先どうなる
焦点は二つ。一つはエネルギー価格がこのまま高止まりするかどうか。イランをめぐる軍事情勢が落ち着けばある程度の緩和は期待できるが、ホルムズ海峡リスクがゼロに戻る見通しは今のところない。
もう一つはトランプ関税の行方。EUと米国の通商交渉が進展すれば輸出競争力の一部は回復する可能性があるが、交渉は難航しており、今夏に決着がつく気配は薄い。欧州産業空洞化を食い止めるためのカードが、EUの手元にどれだけ残っているか。100万という数字が最終的にどこで止まるか、当面は注視するしかない。