ビル・プルトに、諜報の経歴は一行もない。それでもトランプ大統領は7月1日付で、米18の情報機関を統括する国家情報長官代行にこの人物を充てると発表した。前長官タルシ・ギャバードの退任は6月30日。後継者を選ぶのに使った時間より、発表文を書く時間の方が短かったんじゃないか、と思えるほどの電光石火の人事だった。
プルト指名、トランプが語った「10兆ドルの論理」
トランプはSNSへの投稿でプルトをこう持ち上げた。
「ウィリアムはアメリカで最も機密性の高い問題、市場の安全性・健全性、そしてファニーメイ/フレディマックにおける10兆ドル超の資産管理において深い経験を持つ」
ファニーメイとフレディマックは住宅ローンを買い取り、証券化して市場に流動性を供給する政府支援企業。プルトはそれを監督するFHFA(連邦住宅金融庁)の長官として、約1年でこの巨大な資産を動かしてきた。不動産開発の名門ファミリー出身で、プライベートエクイティも手がけるビジネスマンとしての実績は確かにある。ただし「10兆ドルの経験=諜報機関の指揮能力」という等式は、普通の組織論では成り立ちにくい。
「刑事告発」で見えてきた使われ方
より深刻なのは、プルトがFHFA長官として何をやってきたか、という点だ。報道によると、同氏はトランプが敵対者とみなした人物に対して、住宅ローン詐欺を名目に刑事告発を行ったとされている。つまり金融規制の権限を、政治的ターゲットへの武器として使ったのではないかという疑惑がある。上院民主党は今回の指名発表を受け、「この任命は、大統領が情報長官に何を期待しているかを如実に示している」と即座に批判した。遠回しに言っているが、要するに「諜報機関も同じように使うつもりだろう」という読みだろう。プルトはFHFA長官を兼務したまま国家情報長官代行も担うとされており、この「二足のわらじ」体制も異例中の異例といえる。
この先どうなる
代行ポストである以上、正式な上院承認は不要というのが今回のポイント。民主党がいくら反発しても、当面は止める手立てが薄い。注目すべきは、プルトがFHFAで見せた「敵対者への刑事告発」というパターンが、国家情報長官のポストでも再現されるかどうか。18の情報機関が抱える膨大な情報収集能力が政治目的に使われれば、その影響は住宅市場の話とは桁が違う。ギャバード退任から数えて、プルト体制がどこまで続くのか、そして次の「本命」に誰が浮上するのかが、次の注目点になりそうだ。