コーエン証言撤回――その4文字が浮上した瞬間、2024年5月のニューヨーク有罪評決を支えた土台が揺らぎはじめた。トランプ前大統領はTruth Socialへの投稿で、口止め料裁判の主要証人が「圧力と強制によって偽証させられた」と認めたと主張し、訴訟の即時棄却を求めている。ただし現時点で裁判所が棄却を認めた公式記録は存在しない。あくまでトランプ本人の発信であることを、まず押さえておきたい。
コーエンは何を「撤回」したのか――有罪評決の核心証人に何があった
元側近マイケル・コーエンは、トランプ陣営が「最も信頼できない証人」と繰り返し標的にしてきた人物だ。成人映画女優へのポルノ口止め料支払いに関する裁判で、コーエンの証言は検察側の柱だった。2024年5月、ニューヨーク州陪審はトランプに34件の有罪評決を下したが、その評決を積み上げる過程でコーエンの法廷証言が果たした役割は小さくない。
トランプが今回引用したのは、コーエン自身が「圧力をかけられ、強制されて偽証した」と認めた――という趣旨の発言とみられる。しかしコーエンが正式にどこかで証言を撤回したという公式記録は、現時点では確認されていない。SNSや外部インタビューでの発言が「撤回」と解釈されているのか、それとも法廷外の文書が存在するのか、詳細はまだ霧の中だ。
「主要証人が完全に証言を撤回し、あらゆる意味で自分が私に不利な偽証をするよう圧力をかけられ強制されたことを明かした場合、この訴訟は直ちに取り下げられ、棄却されるべきだ」――Donald J. Trump(Truth Social)
「した場合」という条件形で書かれているのが引っかかった。断定ではなく仮定。つまりトランプ自身も、撤回が確定事実かどうかを留保している可能性がある。
法的に「証言撤回」は有罪評決を覆せるのか
トランプ口止め料裁判において、仮にコーエンが法廷外で証言を否定する発言をしたとしても、それが自動的に棄却につながるわけではない。米国の刑事司法では、有罪評決後に新証拠や証人の証言変更を根拠とする「再審請求(Motion for New Trial)」や「棄却申立て(Motion to Dismiss)」を起こすことは制度上可能だ。ただし裁判所がそれを認めるハードルは高く、単に証人が「嘘だった」と後から言うだけでは不十分とされるケースも多い。
ニューヨーク有罪評決を巡っては、量刑言い渡しが繰り返し延期されており、法廷闘争はすでに長期化の様相を呈している。コーエンの発言が弁護側の新たな申立て材料として使われる展開は、十分に考えられる。ただしその申立てが通るかどうかは、また別の話だ。
この先どうなる
焦点は二つ。一つは、コーエンの「証言撤回」が法廷で有効な記録として認定されるかどうか。もう一つは、トランプ陣営がこれを材料に正式な棄却申立てを裁判所に提出するかどうかだ。トランプ陣営はすでに量刑手続きの延期を繰り返し勝ち取っており、今回の発言もその流れの一部として機能する可能性がある。選挙後の政治的文脈の中で、ニューヨーク有罪評決棄却申立てが改めて法的な焦点に浮上するかもしれない。コーエンの次の一手次第で、この裁判の景色はまた変わる。