ブンディブギョ株エボラに「有効なワクチンがない」という一言が、サッカーの親善試合を吹き飛ばした。スペイン南部ラ・リネア・デ・ラ・コンセプシオンの市長フアン・フランコは、アンダルシア州保健当局と市医療部門の勧告を受け、6月9日に予定されていたコンゴ民主共和国対チリの国際親善試合を中止する令を正式に発令した。人口約6万5000人のリゾート都市が、世界規模の公衆衛生問題の震源地に突然なってしまったかたちだ。
なぜ「令」まで出たのか――ブンディブギョ株という未知の変数
今回のエボラ流行を起こしているのは、ブンディブギョ株と呼ばれる希少な種。既存ワクチンが効かず、WHOは新たなワクチンの開発完了まで「最長9か月」と見ている。通常のエボラ流行時に使われるrVSV-ZEBOVワクチンはザイール株向けのもので、今回はそのまま使えない。市の保健部門長が「断固として反対」という異例の言葉を使った背景には、この「打てる手がない」という事情があったとみられる。
「ラ・リネア市長直属の保健部門長による報告書は、生じうる健康リスクを理由に、試合の開催に対して断固として反対を勧告した。」
コンゴ民主共和国の選手たちは全員が国外クラブ所属で、最近の帰国歴もないとされる。ただ、一部のサポートスタッフや支援者がコンゴ国内から渡航していた事実が、当局の判断を傾かせた。「選手は安全でも、周辺のスタッフは?」という問いに答えられなかった、ということだろう。コンゴ代表はすでにキンシャサでの事前キャンプを中止し、ベルギーに拠点を移している。
米国は入国禁止、スペインは試合禁止――各国対応の温度差が浮かぶ
米疾病予防管理センター(CDC)は、コンゴ民主共和国・ウガンダ・南スーダンに過去21日以内に滞在した外国人の入国を禁止している。一方、スペインはここまで国レベルの規制には踏み込んでおらず、対応はあくまで地方自治体の判断に委ねられているのが現状だ。ラ・リネアの決定はその中では最も踏み込んだものとなった。コンゴ民主共和国は今週、ベルギーのリエージュでデンマークとの親善試合を予定しており、こちらの開催可否にも注目が集まっている。コンゴ民主共和国ワールドカップ出場への準備スケジュール全体が、エボラという予測不能な変数に揺さぶられている状況だ。
この先どうなる
デンマーク戦の行方が最初の試金石になりそうだ。ベルギー当局がラ・リネアと同様の判断を下すのか、それとも「選手全員の帰国歴なし」を根拠に開催を認めるのか。WHOのワクチン開発タイムライン「最長9か月」が示すとおり、ブンディブギョ株エボラへの医学的な解決策はすぐには来ない。スポーツ大会の開催判断が各国・各都市の裁量に任される状況はしばらく続くとみられ、コンゴ民主共和国ワールドカップ準備への影響が今後さらに広がる可能性も排除できない。