マーベル・テクノロジーの株価が、ある一言で急騰した。6月2日、台北で開催されたイベントでエヌビディアCEOジェンセン・ファンが隣に立つマーベルCEOマット・マーフィーを指し、「次の1兆ドル企業」と名指しで宣言したのだ。現在の時価総額は約1000億ドル——公の場で10倍の成長を示唆した格好で、市場が反応しないはずがなかった。

ジェンセン・ファンが「10倍成長」を公言した理由

この発言、単なるリップサービスとは受け取りにくい。マーベルが急速に力をつけているのが、カスタムAIチップ、いわゆるASICの設計領域だ。グーグルのTPUやアマゾンのTrainiumといった独自シリコンの設計・製造支援を請け負い、「エヌビディア依存を下げたい巨大テック企業の受け皿」としてポジションを固めつつある。

調べると面白いことが見えてくる。ジェンセン・ファンにとって、マーベルの台頭はライバルの勃興ではなく「AI全体のパイが広がる証拠」として歓迎できる側面があるらしい。エヌビディアのGPUが得意とする汎用的な大規模学習と、マーベルのASICが担う特定用途最適化は、用途が重なりつつも棲み分けが成立しているからだ。

Jensen Huang, left, and Marvell Technology CEO Matt Murphy in Taipei, on June 2. — Bloomberg

台北での2ショットが象徴するのは、そういった「共存の論理」かもしれない。ファンがライバル企業のCEOと並んでカメラに収まり、1兆ドルと口にする——これ、普通の競合関係では起きない光景じゃないか。

グーグル・アマゾンが「脱エヌビディア」へ舵を切る現実

背景にあるのは、AIインフラコストの爆発的な膨張だ。エヌビディアのH100・B200シリーズは性能では圧倒的だが、1枚数万ドルという価格帯は大量調達する側には重い。グーグルやアマゾンにとって、自社ワークロードに特化したASICを設計・量産できれば、単価を大幅に下げられる計算になる。

そこでマーベルのカスタムAIチップ設計力が光る。同社はネットワーク半導体でも実績を持ち、AIクラスターを繋ぐインターコネクト市場でも存在感を増している。「チップ1枚」ではなく「AIインフラ全体のサプライヤー」という文脈で評価されているわけだ。ジェンセン・ファンの発言は、その評価をダイレクトに株価へ転換させた。

この先どうなる

1兆ドルという数字が現実になるかどうかより、注目すべきは「そこへ向かう過程で何が起きるか」だろう。グーグル・アマゾン・メタ・マイクロソフトがそれぞれカスタムシリコンへの投資を加速させれば、マーベルの受注パイプラインはさらに厚くなる。一方、インテルやブロードコムも同じASIC市場を狙っており、競合は激化必至だ。ジェンセン・ファンの一言が呼び水となり、AI半導体の覇権地図は静かに、しかし確実に塗り替えられていきそうだ。