欧州核配備拡大に向けた協議が、静かに動き出した。フィナンシャル・タイムズが報じたその内容は、冷戦終結から30年以上かけて縮小してきた欧州の核態勢を、いよいよ逆回転させるかもしれないシナリオだった。

B61爆弾「推定100発」の次を、NATOはどう描くか

現在、欧州に残されている米国の戦術核兵器はB61重力爆弾を中心に推定100発前後とされている。冷戦ピーク時には数千発規模だったことを考えれば、すでに大幅に削減された水準だ。今回の協議はその数字と配備地点の両方を見直す可能性があるという。

背景にあるのは、ロシアによるウクライナ侵攻の長期化と、プーチン政権が繰り返してきた核使用示唆発言だ。「核のレトリック」として軽視されてきた発言が積み重なるなかで、NATO側の忍耐にも限界が見え始めてきた感じがある。

「米国はロシアへの抑止力強化の一環として、欧州への核兵器配備拡大についてヨーロッパの同盟国と協議中である」(フィナンシャル・タイムズ)

協議の存在自体がシグナルになる、というのがNATOの計算だろう。ただし、内部では賛否が割れているとも報じられており、一枚岩にはほど遠い。

ドイツ・イタリア・ベルギーが抱える「核共有」の矛盾

引っかかるのは、NATO核共有協定を持つ非核保有国の立場だ。ドイツ、イタリア、ベルギーなどは、米国の核兵器を自国領土に置き、有事には自軍のパイロットが投下する役割を担う仕組みに参加している。

この構造自体、ロシア側からすれば「非核保有国が核運用に関与している」という批判の材料になりやすい。配備を拡大すれば、その口実がさらに増える恐れがある。ロシア核抑止戦略を強化したいはずが、逆にロシアに核ドクトリン改定の言い訳を与えかねない、という皮肉な構図だ。

一方でNATO側には「曖昧さを保ったままではロシアに見くびられる」という焦りもある。協議が表に出てきたこと自体、そのジレンマが臨界点に近づいているサインなのかもしれない。

この先どうなる

協議の行方を左右するのは、まず今秋以降に予定されるNATO核計画グループ(NPG)での議論だろう。ドイツでは連立政権の内部でも核共有への姿勢に温度差があり、国内世論の動向が協議に影響する可能性がある。ロシアが新たな核演習や威嚇行動に出れば、議論は一気に加速する展開もありうる。欧州核配備拡大が実際に動き出すのか、それとも協議段階で消えていくのか——NATOが出す「答え」は、ロシアだけでなく中国や北朝鮮も注視しているはずだ。