米イラン停戦交渉が成立してから2週間、その綱渡りはいまも続いている。4月8日に発効した停戦合意を、BBCのジェレミー・ボウェン国際編集長が「どちらも戦争に戻りたくない、だがどちらも引かない」と分析した。この微妙な均衡を今、ネタニヤフが壊しにかかっている——そう見えても不思議じゃない状況だ。
ネタニヤフのベイルート再爆撃宣言がトランプの外交を詰ませた
イスラエルが爆撃機をベイルートに戻すと宣言した瞬間、トランプが積み上げてきた外交の余白はぐっと縮んだ。パキスタン・カタールが仲介する交渉はまだ続いているが、「了解覚書」の合意すら難航している段階だった。そこにネタニヤフのレバノン攻勢再開が重なった。
「イスラエルが爆撃機をベイルートに戻すと宣言したことで、トランプの選択肢はさらに狭まった。ネタニヤフ首相は、レバノンでの攻撃再開がトランプの合意交渉を複雑にしても意に介さないだろう」(Jeremy Bowen, BBC International Editor)
ネタニヤフにとって米イラン停戦交渉の進捗はむしろ都合が悪い側面もある。イランへの圧力が外交で緩和されれば、ヒズボラへの補給ラインが再び動き出しかねないからだ。ベイルートへの爆撃機再派遣は、それを見越した先手という見方もできる。
ホルムズ海峡リスクが「誤算」を現実にする日
米軍はいまもイランの攻撃圏内に強力な海空戦力を展開したまま。イラン側は停戦期間を「再編と修復」に充てつつ、湾岸の米軍基地やアラブ湾岸インフラへの反撃能力を誇示し続けているらしい。ボウェン編集長が指摘するのは「誤算と誤認」のリスクだ。どちらも戦争を望んでいないからこそ、意図せず引き金を引く展開が怖い。
ホルムズ海峡リスクが現実になれば、世界の石油輸送量の約2割が通過するこの水道が封鎖に向かう。2022年のウクライナ侵攻後に起きたエネルギー価格の急騰は記憶に新しく、市場はこの地域の緊張を静かに、しかし真剣に値踏みしている。
この先どうなる
当面の焦点は「了解覚書」の合意ができるかどうか。これが成立しないと、次の本格交渉の議題すら設定できない。イランは制裁解除を最低条件に据え、米国は核開発の検証可能な凍結を求める構図は変わっておらず、ギャップは大きい。ネタニヤフがレバノン攻勢をどこまで拡大するかが、トランプの仲介余地を直接左右するだろう。米中東特使スティーブ・ウィトコフが次にカタールを訪問するタイミングが、当面の最大の観測点になりそうだ。停戦がこのまま維持されるか、一発の誤射で崩れるか——その分岐点はもう、外交の席ではなくホルムズ海峡の水面上にあるかもしれない。