ベイルート攻撃撤回が現実のものとなった経緯が、ニューヨーク・タイムズの報道で明らかになってきた。イスラエルがレバノンの首都への攻撃をいったん引いた背景には、トランプ政権による直接的な圧力があったらしい。ホワイトハウスの外交計算が、ネタニヤフ政権の軍事論理を上回った瞬間とも言える。
トランプがイスラエルに「待て」をかけた理由
現在、米国とイランの間で核問題をめぐる停戦交渉が水面下で進んでいる。その状況でイスラエルがヒズボラへの攻撃をエスカレートさせれば、交渉の土台が根底から崩れるとワシントンは判断した。
トランプ政権にとって、イラン和平交渉は中東政策の柱の一つだ。核合意の再構築が成功すれば外交的実績になる一方、失敗すれば原油市場の混乱と地域全体の不安定化が待っている。そのリスクを前に、「今は動くな」という明確なシグナルをイスラエルに送ったとみられる。
「トランプ大統領はイスラエルにレバノンの首都を攻撃しないよう圧力をかけている。ヒズボラへの作戦をエスカレートさせれば、イランとの和平交渉が脅かされる可能性がある。」(ニューヨーク・タイムズ)
引っかかったのは「一本の電話が地域の運命を左右した」という報道の表現だ。大国間の外交がここまで個人的なコミュニケーションに依存しているとすれば、それ自体がすでに綱渡り状態じゃないかと感じる。
攻撃が実行されていたら何が連鎖したか
ベイルートへの攻撃が現実となっていた場合、想定される連鎖はいくつかある。まずレバノン全土への波及。ヒズボラが大規模な反撃に出れば、2006年の紛争を超える破壊になりかねない。
次にイラン核交渉の完全崩壊。テヘランとしては、自陣のプロキシが攻撃される中で交渉テーブルに座り続けることは政治的に不可能だ。交渉の窓が閉じれば、核開発の加速という選択肢が再浮上する。
そして原油市場への衝撃。ホルムズ海峡周辺の緊張が高まれば、エネルギー供給への懸念から原油価格が跳ね上がる。トランプ・イスラエル圧力交渉の成否が、ガソリン価格にまで影響する話になっていたわけだ。
今回、攻撃は回避された。だが撤回はあくまで「今のところ」であって、イスラエル国内の軍事的圧力が消えたわけではない。ネタニヤフ政権は右派連立を維持するために強硬姿勢を保つ必要があり、ヒズボラとの緊張はくすぶったままだ。
この先どうなる
焦点は二つに絞られる。一つは、米・イラン間の核交渉が合意まで到達できるかどうか。交渉が順調に進んでいる間は、トランプがイスラエルを抑える動機が続く。逆に交渉が暗礁に乗り上げれば、その歯止めも外れる。
もう一つは、イスラエル国内の政治動態。ネタニヤフ政権の連立維持には強硬派の存在が欠かせず、外からの圧力だけで軍事行動を長期間封じ込めることは難しい。今回の撤回が一時的な「間」なのか、外交転換の入り口なのか、次の数週間で見えてくるはずだ。
イラン和平交渉と中東の安定が同時に試されている今、この綱引きはまだ続きそうだ。