李強が「新冷戦」という言葉を正面から使った。外交の場でこの単語が出てくるとき、たいてい何か切迫したものがある。アジア太平洋の多国間首脳会議という舞台を選んで、中国首相が分断への警告を発したのは木曜日のこと。APが報じた。

平均145%の関税という現実が、李強を動かした

タイミングを見れば、この発言がなぜ今なのかは読み解きやすい。トランプ政権が対中関税を平均145%まで引き上げ、米中デカップリングは「議論」ではなく「現実」になりつつある局面だ。

そこで李強が選んだのは、中国の経済モデルを「脅威」ではなく「機会」と再定義する語り口だった。インフラ投資、サプライチェーン、観光、貿易——中国との連携は損ではないと、聴衆であるASEAN各国の首脳に向けて畳み掛けるように訴えた格好だ。

「中国の李強首相は木曜日、アジアにおける『新冷戦』に警告を発し、自国の経済モデルを擁護するとともに、分断ではなく地域協力を呼びかけた。」(AP通信)

これは外交辞令じゃない、と感じた理由がある。中国が言葉を選ぶとき、「新冷戦」という強い表現は通常避けるものだ。あえてその言葉を使ったということは、ここで主導権を握る意図があったということだろう。

ASEAN各国が「陣営選択」を迫られる構図

東南アジア各国にとって、これはどう聞こえたか。ベトナム、インドネシア、タイ、フィリピン——いずれも米中双方と深い経済的つながりを持つ。どちらかに肩入れすれば、もう一方との関係が傷つく。だから多くの国が「戦略的曖昧性」を維持してきた。

ところが関税圧力や軍事的緊張が日常化してくると、曖昧なままでいることのコストが上がってくる。李強の今回の発言は、そのコスト計算に「中国側に来たほうが得」という変数を混ぜ込もうとする試みといえる。ASEAN陣営選択を巡る争奪戦はもう始まっていて、水面下では激しいらしい。

面白いのは、東南アジア諸国が今のところ「どちらにもいい顔をしながら実利を取る」という戦術を続けていること。その戦術がいつまで通用するかは、米中双方の圧力がどこまで強まるかにかかっている。

この先どうなる

米中デカップリングが深まるほど、中国のASEAN向け外交攻勢は激しくなると見ていい。李強の今回の発言は、その布石の一手だったと後から評価されるかもしれない。一方でASEAN各国が「反分断の多数派」として中国と足並みをそろえるかどうかは、まだ別の話だ。RCEP(地域的な包括的経済連携)の活用を通じた経済統合が進めば中国の引力は強まるが、南シナ海問題など安全保障上の火種は消えていない。静かに値踏みを続ける東南アジア各国の動向が、今後数ヶ月の最大の焦点になりそうだ。