ブンディブグヨ株エボラに対するワクチンは、今この瞬間、地球上に存在しない。コンゴ民主共和国での死者はすでに250人に迫り、感染疑い例は1000件を突破。隣国ウガンダでも9件が確認された。そこへようやく動いたのが、IAVI・オックスフォード大学・製薬大手モデルナの3機関だった。それぞれ独立してワクチン開発に着手したというニュースを読んで、まず思ったのは「なぜ今まで誰も作っていなかったのか」という素朴な疑問だった。
ブンディブグヨ株は過去2度しか確認されていない「希少株」
エボラウイルスには6種の亜種があり、アウトブレイクを引き起こすのはそのうち3種。最も流行頻度が高いザイール株にはすでにワクチンがある。ところがブンディブグヨ株は過去2度しか大規模感染が記録されておらず、ワクチン開発の優先度が低く置かれてきたらしい。希少であることが、逆に「準備しない理由」になってしまっていた——そう読むとゾッとする話じゃないか。
今回の発見がさらに遅れた背景には、紛争地帯という地理的・社会的条件がある。医療インフラが脆弱な地域では、最初の感染者が出てもデータが上がってこない。気づいたときには静かに広がっていた、というパターンだ。MSF(国境なき医師団)が「これほど早期にこれほど多くの症例が記録されたことはない」と表現したのも、そういう文脈で読むと重みが増す。
「これは明らかに、あの規模と同等か、それ以上に深刻なアウトブレイクになる脅威だと思います。ワクチンおよびその他の対抗手段の開発は、明らかに最優先事項です」
— Dr Mark Feinberg, IAVI代表
「あの規模」とはもちろん2014〜16年の西アフリカ大流行のこと。感染者約2万9000人、死者1万1000人超という数字は、現代における最悪のエボラ被害として刻まれている。その再来どころか、超える可能性をIAVI代表が口にしているわけだ。
3機関が「競走」する理由——開発スピードを上げる戦略か
IAVI・オックスフォード大学・モデルナがそれぞれ独自に動いているのは、リソースの分散というより、アプローチの多様化と見るほうが自然だろう。資金を提供するCEPI(感染症流行対策イノベーション連合)は各グループに同時に支援しており、「一日一日が勝負」という言葉を選んでいる。一つが失敗しても他が継続できる構造——これはCOVID-19ワクチン開発で学んだ教訓の応用とも言える。
ただ、ワクチン開発には通常数年かかる。今の感染ペースに間に合うかどうかは、正直なところ誰にも断言できない。治験の段階的な短縮が認められるかどうか、規制当局の判断も鍵を握っている。コンゴ民主共和国 感染拡大の現場では、その間もウイルスは動き続けている。
この先どうなる
最速でワクチン候補が出たとしても、臨床試験・承認・流通というハードルが残る。コンゴ東部の紛争地帯に冷凍ワクチンを届けるロジスティクスも、簡単ではない。短期的には既存の感染制御手段——隔離・接触者追跡・防護具——が命綱になる。IAVI ワクチン開発の進捗次第では、緊急使用承認の議論が浮上する可能性もある。ウガンダへの波及が確認された今、国際社会がどこまで本気で資源を投じるか。2014年の教訓が活かされるかどうか、そこが分岐点になりそうだ。