銅需要供給不足が「警告ライン」を越えた、とBloombergの番組で言い切った人物がいる。Copper Intelligence会長のアンドリュー・グローブス氏。日付は2026年6月1日——トランプ政権が米国の輸入関税判断の期限を迎える、ちょうどその月の初日だった。

EV1台に80kg、大型データセンターには数百トン——数字が語る異常事態

電気自動車1台が消費する銅は約80キログラム。大型AIデータセンターとなると、それが数百トン規模に跳ね上がる。ここ数年で爆発的に増えたデータセンターの建設ラッシュを頭に浮かべれば、桁が合わなくなってくる感覚があるんじゃないか。

グローブス氏が指摘する需要の波は三つ。AIデータセンターの急増、電気自動車の普及、そして老朽化した送電網の大規模刷新——これらが「同時に」銅を要求している点が厄介なところ。過去の資源サイクルと違って、需要ドライバーが一本じゃない。

「銅需要が世界供給を超過している」——Copper Intelligence会長 アンドリュー・グローブス(Bloomberg Businessweek Daily、2026年6月1日)

対してサプライサイドはどうか。新規鉱山の開発には平均16年かかるとされている。探鉱から環境審査、インフラ整備まで含めれば、今日ゴーサインを出しても銅が市場に出回るのは2042年前後という計算になる。需要側の時計と、供給側の時計が根本的にズレている。

ニューヨークとロンドンで相場が動いた6月初日

この発言と時を同じくして、ニューヨークとロンドン両市場で銅相場が上昇した。偶然の一致とも言えるが、市場がGroves発言を値動きで先取りしていたとも読める。AIデータセンター資源としての銅への注目度が、投資マネーのレベルでも高まっていることがうかがえる。

さらにタイミングとして見逃せないのが、トランプ政権の関税判断期限が重なっていること。米国が銅に輸入関税を課す動きに出れば、国内調達コストが上がり、データセンターやEVサプライチェーンへの影響が直撃する可能性もある。Copper Intelligence Grovesが今この瞬間に声を上げた背景には、政策的な緊迫感もあったらしい。

この先どうなる

構造的な銅需要供給不足が解消される見通しは、短期的にはほぼ立っていない。鉱山開発の16年ラグは現実の制約で、それを埋めるための策——リサイクル銅の活用拡大、代替素材の研究開発、需要側の効率化——が本格的に動き出せるかが当面の焦点になる。銅相場の高止まりが続けば、データセンター建設コストやEV価格への転嫁圧力も強まるだろう。AIブームの熱量が高いほど、銅という物理的な制約が経済全体の「天井」として意識されていく——そんな局面に入ってきた、というのが今の状況じゃないかと思う。