円買い介入の規模が、記録を塗り替えた。Bloombergが5月29日に報じたところによると、日本政府はこの1ヶ月間で736億ドル、日本円にして約11兆円超を外国為替市場に投入し、急落する円を買い支えたという。単月の介入額としては日本史上最大規模――その数字が意味するのは、円安圧力がそれほど手に負えない水準に達しているということだろう。
736億ドルで何が変わったのか、変わらなかったのか
介入の直接的な目的は円の急落を止めることだが、問題はその持続性にある。外貨準備高は有限で、市場参加者もそれを十分わかっている。今回の規模の介入を毎月繰り返せば、日本が積み上げてきた外貨準備は半年も持たない計算になる。
円安が家計に響く経路はシンプルだ。輸入コストが上がり、エネルギーや食料品の価格が上昇する。国内でじわじわと効いてくるインフレは、日銀の金融政策だけでは抑えきれない。だからこそ財務省が市場に直接手を突っ込んでいる形だが、これは「消耗戦」と呼ぶほかない様相を呈してきた。
Japan Used Record $73.6 Billion to Support Yen in Past Month — Bloomberg(2026年5月29日)
市場関係者の間では「財務省がどこまで耐えられるか」を読み合う雰囲気が強まっている。一回の介入で円相場が数円動いても、数日後にはじわじわと元の水準に戻っていく。これが繰り返されるなら、介入はコストだけがかかって効果が薄れていく消耗になりかねない。
ドル高圧力に「孤独な戦い」、日銀と財務省の板挟み
背景にあるのは、日米の金利差だ。米連邦準備制度(Fed)が高金利を維持し続ける限り、ドルに資金が集まりやすい環境は変わらない。加えてトランプ政権下で加速しているとされるドル高圧力が、円安に追い打ちをかけている。
日銀は利上げを進めているとはいえ、そのペースはFedの金利水準には遠く及ばない。ドル円為替の大局的な流れは、介入で一時的に抑えられても、構造的な力学としては残り続ける。財務省が単独で「孤独な通貨防衛」を続ける限界は、736億ドルという数字が端的に示している。
外貨準備高の消耗速度と市場の押し返し力、どちらが先に折れるか。それが今、市場参加者が注視している核心部分だろう。
この先どうなる
次の焦点は二つ。一つは、Fedが利下げに踏み切る時期――これが早まれば日米金利差が縮小し、円安圧力は自然に和らぐ。もう一つは、日銀の追加利上げの判断だ。国内景気への悪影響を懸念しながらも、円安放置への批判が高まれば、日銀が動かざるを得ない局面が来るかもしれない。今のところ、どちらの「援軍」も確約はない。財務省の介入は続くだろうが、外貨準備高の水位は着実に下がっていく。