ホルムズ海峡をめぐる米イラン交渉に、覚書の草案が浮かんでいる。世界の原油流通の約2割が通過するこの海峡の「再開」を軸にした文書らしいのだが、調べていくと一つ大きな穴に気づく。トランプ大統領はまだ署名していない。イランは何も認めていない。

草案は存在する、でも「合意」は存在しない

ニューヨーク・タイムズの報道によれば、覚書の草案は実際に動いているようだ。ただし現時点での位置づけはあくまで「案」で、米側もイラン側も公式の確約を取り交わしていない段階にある。

「ホルムズ海峡の再開につながる可能性がある覚書の草案は、依然としてトランプ大統領の承認が必要であり、イランは何らのコミットメントも確認していない」(The New York Times, 2026年5月29日)

仲介役を担うオマーンが両国の文言の擦り合わせを続けているとされる。外交的な慣習からすれば、ここまでのプロセス自体は珍しくない。ただ、米イラン交渉の場合は「合意に近い」というトランプ政権側の発信と、テヘランの沈黙とのギャップがあまりに大きくて、市場がその落差に敏感に反応している状況だ。

革命防衛隊の「海峡支配権」が交渉の核心

米イラン交渉 覚書の文言よりも、実態として重いのが革命防衛隊の問題だ。ホルムズ海峡はイランの革命防衛隊が実効支配しており、船舶の航行を制限・妨害できる能力を持っている。核合意の話し合いとは別に、この支配権をどこまで縮小させられるか――そこが交渉の核になっているとみられる。

革命防衛隊 海峡封鎖のリスクが消えない限り、原油市場の不安定な値動きも収まらない。BP株の急落はその神経質さを正直に映したもので、「合意に向かっている」という発信だけでは市場を落ち着かせられないと改めて証明した格好だった。

この先どうなる

最も注目すべき変数はイランの国内政治だ。最高指導者ハメネイ師と交渉チームの間でどれだけ温度差があるか、外からは見えにくい。オマーンが仲介を続ける間、米側が「合意間近」と発信し続けても、テヘランから公式のコメントが出てこない状況はしばらく変わらないかもしれない。原油市場は当面、この情報の非対称さに翻弄されそうだ。草案が本物のサインに変わる日が来るとすれば、それは革命防衛隊の動きが先に変わるタイミングと重なるんじゃないかという見方が、複数のアナリストから出始めている。