アジア通貨危機の記憶が薄れかけていた2026年、約30年ぶりに似た構図が東南アジアで浮かび上がってきた。インドネシアとマレーシアの中央銀行は相次いで積極的な利上げに踏み切ったが、ルピアとリンギットの下落は一向に止まる気配を見せていない。利上げが通貨を守るどころか景気だけを冷やす、という最悪のシナリオが現実味を帯びてきた。
利上げが効かない理由——資本流出の速度が別次元だった
通常、金利を上げれば高い利回りを求めた資金が流入し、通貨は下支えされる。ところが今回はそのメカニズムが機能していない。原因として挙げられるのが、米ドルの高止まりとトランプ政権による追加関税圧力の組み合わせだ。
関税リスクを嫌った投資家がアジア新興国から資金を引き揚げるスピードが、中銀の利上げペースをあっさり上回ってしまった。金利差は確かに開いているのに、それを打ち消すほどのドル需要が市場に渦巻いている——というのが現場感覚に近い。
「アジアの中央銀行は一段と積極的な利上げに踏み切っているが、その動きが通貨を安定させる兆候はほとんど見られない」(Bloomberg、2026年5月29日)
中央銀行利上げが「信頼の証」として機能するには、市場がその国の財政・経常収支を信頼していることが前提になる。今のマレーシアやインドネシアが問題視されているというより、グローバルなドル回帰トレンドが強すぎて、どの新興国も防戦しきれない状況に追い込まれているらしい。
1997年と何が違い、何が同じか
1997年のアジア通貨危機では、固定相場制の維持が引き金になった。今回の各国は変動相場制を採用しており、制度的な脆弱性は当時より低いとされている。外貨準備も積み上がっており、IMFに泣きつく展開はすぐには来ないだろう。
ただし「同じ」と感じさせる部分がある。それは「利上げしたのに通貨が売られ続ける」という市場の不信感そのものだ。97年も、各国が政策を手を尽くすほど市場の疑念が深まっていった。今回も、利上げという正統的な手段が通じないと知れ渡るほど、投機筋の標的になりやすくなる。どの国が「次の震源地」になるかを市場はすでに静かに織り込み始めているとも報じられた。
この先どうなる
焦点は二つに絞られてくる。一つは米連邦準備制度(Fed)の利下げ転換時期。ドル高の根っこにあるのは日米金利差であり、Fedが動けば資本流出の圧力は一気に緩む可能性がある。もう一つはトランプ関税の行方で、交渉が進展すれば東南アジアへの直接的なダメージは限定されるシナリオも残っている。
とはいえ、どちらも「いつ」かが読めない。それまでの間、各国中銀は景気を犠牲にしながら通貨を守り切れるかどうかという綱渡りを続けるしかない。ルピアとリンギットの動きは今後しばらく、アジア金融市場全体のバロメーターになりそうだ。